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連載小説「やりなおし」(50)

 2-1.露見   (5)  固く閉じていた水門が緩み、あふれ出した流体が竿の内側を駆け抜けて、体外へと漏出する。  熱を帯びた氾濫は、紙に燃え広がる炎のように、おむつに包まれた股間に広がってゆき―― 「あ、ああ……!」  もはや慣れ親しんだ、おもらしの感覚。  しかしいまこの場――合宿が始まったばかりの、それも幼稚園らしい年少組教室でしていると、たまらないほどの羞恥と背徳が心をさいなんだ。  すぐ隣の大部屋では、レイカと恭子が説明の準備をしている。  反対側の2つの教室では、女子小学生たちがそれぞれ荷解きをしている。  なのに自分はこうして、ピンクのワンピースの中に当てた女児用紙おむつの中に、たっぷりとおもらしを―― 「はぁっ、はぁっ……ど、どうしよう……?」  下ろしたばかりの段ボールの前に、ペタンとお尻をつくように座り込んだまま、歩実は考え込む。  おもらし自体はすぐに止まったが、小水を吸ったおむつはパンパンに膨らみ、じっとりと肌を湿らせている。一刻も早く交換するに越したことはない。  そこへ―― 「やはり、間に合わなかったようだね」  ギョッと振り返ると、レイカと恭子が教室の入り口に立って彼を見下ろしていた。 「そ、その、これは……」 「おもらししてしまったんだろう? 合宿所に着いた時にはもう危ない状態に見えたんだが、まぁ大丈夫だろうと思って油断したな。ふむ、やっぱりキミの膀胱はかなり小さいのか――緊張や羞恥などの心理的負担に、極端に弱いようだ」  わかっていたんなら、あの時にトイレに行かせてくれていれば――そう言いかけた歩実だったが、ぐっと我慢する。ちゃんと行かなかった自分が悪いのだし、レイカのせいにするのはそれこそ見苦しい。  そんな彼の心中も見透かしたように、レイカは小さく笑う。 「ふふ、詫びというわけではないが、他の参加者には大部屋で説明をおこなうから、キミはゆっくりおむつを交換してから来るといい。それと――恭子くん、彼を手伝ってあげてくれ」 「はい、わかりました」 「えっ……!?」  あまりにも予想外の展開に、歩実は凍り付く。  しかも、恭子は何のためらいもなく中に入ってきて、廊下の窓にかかったカーテンを下ろし始めていた。 「あの、ひとりで交換できるから――!」 「遠慮しないで。あたし、大きい子のおむつ交換するのには慣れてるから。ま、さすがに歩実ちゃんくらい大きい子は初めてだけど」  恭子は振り返りもせず、今度は園庭に面する大窓のカーテンを閉めてゆく。すべての窓がカーテンに覆われたところで、 「さ、お姉ちゃんに任せてちょうだい、歩実ちゃん」 「え、遠慮とかじゃなくて! 恭子――お姉ちゃんには、見られたくないからっ……!」  懸命に叫ぶ歩実。恭子におむつ交換まで見られることになったら、何のために合宿に参加したのか、それこそ判らなくなる。 「気にしなくていいのよ、歩実ちゃん。それとも――あたしにおむつ交換されるのは、イヤ?」 「うっ……」  ふいに恭子の声が真摯な響きを帯びたのを、歩実ははっきりと感じ取っていた。  断られることがわかってて揶揄っているのも、反応を楽しむためにふざけているのでもない。  つまり彼女は―― (歩実はあたしに、恥ずかしいところを見られるのは、イヤ?)  そう尋ねているのだ。 (恥ずかしいところならもう、女の子の格好をしてる時点で見られてるようなものけど――) (でもやっぱり――おむつ交換は……!) 「う……うん」  歩実は恭子から目をそらして、言った。 「恭子――お姉ちゃんに、見られるの、恥ずかしいから……ひとりで、交換する……」 「……うん、わかった」  彼女がどんな表情をしているのかは、わからない。  恭子は平板な声で答えると、そのまま部屋を出て行った。 「はーっ……」  再び歩実は教室に一人きりになり、大きく息をつく。  恭子におむつを交換されるという事態は回避できたものの――逆にいっそう、事態が悪化したような気がしてならない。 (いっそあのままおむつ交換してもらって、その間に仲直りしたほうが――いや、でもそれはさすがに恥ずかしすぎるから……) (ああもう、どうすればよかったんだ……)  濡れたおむつのせいで、いっそう気分が落ち込む。歩実は憂鬱な表情のまま顔を上げ、 「とにかく、おむつを替えちゃおう……」  暗澹たる思いを抱えながら、まずは持ってきたバッグの中から、替えのおむつを取り出すのだった。   (続く)


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