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「おむつぐみ」(75)

「――なので和実ちゃんも、『おむつ組』の園児として、立派な赤ちゃんになれるように頑張ってください。これから一年間、和実ちゃんと一緒に過ごせる幼稚園生活を、楽しみにしています。  以上で、歓迎の言葉を終わります」  香織がきちんと言い終えてお辞儀すると、会場からは拍手が上がった。 和実もミトンをはめた手で、パタパタと拍手する。歓迎に対する感謝の気持ちと同時に、もはや逃げ場のない袋小路に追い詰められてしまったような感慨に胸がふさぐ。 (これから、1年間――赤ちゃんになって、幼稚園のみんなから、お世話される――) (冗談でもなんでもなく、本当に――)  しかし香織が元の場所に戻ってすぐ、 「以上、在園生の、歓迎の言葉でした。続いて――」  司会進行の保育士の声によって、和実は現実に引き戻される。 「倉石和実ちゃん、新入生の挨拶と、『おむつ組の誓い』をお願いします」 「んっ……」  ついに来た。  今までとは違う緊張に、和実は表情を引き締めた。  おしゃぶりに手を掛けると、口中に溜まった唾を嚥下して、さらにまだ残った分がこぼれないように吸い付きながら、「ちゅっ」と音を立てて外す。両手で胸元に当てるようにおしゃぶりを持ったままお辞儀して、 「は……はじめ、まちて。むちゅがくえん、じょちようちえん、おむちゅぐみに、にゅうえんさしぇてもらうことになった、くらいち、かじゅみでちゅ。みーたんって、よんで、くだちゃい」  舌足らずな、赤ちゃんのような口調で、和実は挨拶を述べてゆく。先ほど香織が、年少組とは思えないほどしっかりした挨拶をしただけに、いっそう恥ずかしさが募った。 「ようちえんの、せんせいと、おねえちゃんたち――きょうは、みーたんのために、にゅうえんちきを、ひらいてくれて、ありがとう、ございまちゅ。ちょれに、しょとうぶと、ちゅうとうぶと、こうとうぶの、おねえちゃんたちも、きてくれて、ありがとうございまちゅ」  形通りの、歓迎の挨拶へのお礼。  ここまでは高等部の入学式でも述べるような、ごくありふれた内容だったが――赤ちゃんのような服装と口調、何よりも「幼稚園の入園挨拶」というシチュエーションのせいで、15歳の少年にとってはじゅうぶんな羞恥プレイである。  さらに、本番はこの後で―― 「み、みーたんは、もともと、こうとうぶに、にゅうがくちた、いちねんちぇいの、おとこのこ、でちた」  名札によって暗示され、先ほど香織も述べたように、本当は少年であることを明かす。 「けど、にゅ、にゅうがくしきで、きんちょうのあまり、お、おもらち、ちちゃって――こうちて、あかちゃんからやりなおちゅために、じょちようちえんの、おむちゅぐみに、にゅうえんさせてもらうことに、なりまちた」  口にしたとたん、またしても緊張に陰嚢が竦む。キリキリとした痛みは尿意にも似ていたが――あいにく一週間のおむつおもらしによって尿意への意識が希薄になっている和実には、はっきりとわからなかった。 「お、おむちゅぐみへの、にゅうえんにあたって、みーたんは、いっちゅうかんまえから、あかちゃんとちてのせいかちゅを、はじめまちた。  おようふくは、いま、きてる、おむちゅぐみのせいふくや、ようちえんちていの、じょじべびーふくを、きて――ぬのおむちゅも、たっぷりあてて、そのなかに、おもらちちていまちゅ。よごしちゃったおむちゅは、ママや、おねえちゃんにおねがいちて、とりかえて、もらっていまちゅ。  おでかけも、ようちえんの、ちぇいふくや、ようちえんがえらんだ、おんなのこようのべびーふくでちゅ。せんちゅうも、にゅうえんじゅんびのために、このちぇいふくで、たくちゃん、ひとのいるばちょに、でかけまちた」  和実の言葉に、園児たちや、初等部、中等部の少女たちも、驚きの表情を浮かべる。園児服よりなお幼い、ベビー服同然の「制服」で人前に出る恥ずかしさは、少女たちにとっても察してなお余りあった。 「さ、さいちょは、あかちゃんになるなんて、ただはずかしい、だけでちた。でも、せっかく、ようちえんの、おむちゅぐみに、にゅうえんさせてもらえたので、これからいちねんかん、ちぇいいっぱい、おんなのこの、あかちゃんになりきりたいと、おもいまちゅ。  だから、おねえちゃんたち、これから、ごめいわくをかけることになりまちゅけど、どうか、みーたんのことをかわいがってくだちゃい」  そう言って、いったん頭を下げる。  湧きあがった拍手がおさまるのを待ってから、再び顔を上げ―― 「それでは――ここに、おむちゅぐみの、ちかいを、おこないまちゅ」   (続く)


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