「おむつぐみ」(61)
Added 2020-04-30 12:08:36 +0000 UTC「倉石くんは、可愛いお洋服が好きなのね。じゃあ、今のお洋服と、その好きなところを答えてくれる?」 「い、いまの、おようふくのっ……!?」 唐突な質問に、和実は面食らう。 いま着ている服についてしゃべるとなると、じっくり観察したうえで、「可愛いお洋服が好きな女の子」として答えなければならない。羞恥を煽る課題に、和実は真っ赤になりながら、ときおり視線を落としつつ、 「え、えっと……きょ、きょう、きているのは、おじゅけんようの、すーちゅふう、ちぇっとでしゅ。うえは、まるえりと、ながちょでの、ちろい、ぶらうちゅで、ままにきちぇてもらえるように、ちぇなかに、ぼたんが、ちゅいていまちゅ。えりの、れーちゅと、ちょでの、ふりゆが、とっても、かわいくて、きにいってまちゅ……」 しゃべるうち、だんだん舌が幼児語にセットされてくる。同時に、思考すらも退化してしまうかのような錯覚に、うすら寒い心地になる。 「うんうん。下は? 先生に見えるように立ち上がって、見せてもらえる?」 「ち、ちたは……」 和実は立ち上がると、園長から全身が見えるようにテーブルの横に移動して、 「ちたは、こんの、だるまろんぱーちゅを、きていまちゅ。ふぉーまるな、かんじだけど、こちに、ちゅかーとみたいなふりゆもついてて、とっても、かわいいでちゅ」 「いいわよ。他は?」 「ほ、ほかは……れ、れーちゅの、ちゅいた、くちゅしたと、ちゅとらっぷに、りぼんのちゅいた、しゅーずを、はいてまちゅ……れーちゅが、おんなのこらちくて、とっても、どきどきちまちゅ……」 「そう、女の子らしくて、ドキドキするのね。あたまにかぶってるのは?」 「あ、あたまには、ろんぱーちゅと、おそろいの、こんのべびーふーどを、かぶってまちゅ。おかおの、まわりが、ふりゆになってて、ちろいれーちゅも、ちゅいてて、ちゅごく、かわいいでちゅ……」 「その調子よ。おむつとおむつカバーは、何をつけてるのかな?」 「おむちゅは、はーとがらの、ぬのおむちゅを、じゅうまい、あてて、ひよこがらの、おむちゅかばーを、ちゅけてまちゅ……」 「ヒヨコ柄なの、可愛いわねぇ」 「う、うう……」 ひとことひとこと、発するごとに自分が赤ちゃん返りしていくような恥ずかしさと恐ろしさに、おむつの中で陰嚢が竦みあがる。 稲村園長は小さく笑った後、表情を引き締めて、 「ええ、とてもいいわ、倉石くん。これからお口を利く時は、ちゃんと幼児語でしゃべるようにすること。いいわね?」 「は、はい。わかりまちた……」 「それと、主語もきちんと言うこと――どうすればいいか、判るわよね?」 試すような言葉に、和実は相手の意図を察する。つまり、先生は―― 「う……は、はい、かじゅみ、わかりまちた……」 恥を忍んで、自分の名前を一人称にする和実。 しかし園長は、 「うーん……かずみちゃん、だと、あんまり可愛くありませんね。かずみたん、かずたん、みーたん……そうね、これから自分のことは、『みーたん』って呼ぶようにしなさい。判った、倉石くん?」 「み――! は、はい、みーたん、わかりまちた……」 本当に言葉を覚えたての赤ちゃんのような一人称だったが、和実は屈辱をこらえて受け入れた。相手からの呼びかけだけは中途半端に「倉石くん」のままなのが、余計に恥ずかしい。 「あとは――おむつとおもらしは、どう? 好き?」 「う――み、みーたんは……」 嫌だ。恥ずかしい。やめたい。そんな本心が口をついて出そうになるが、 (みーたんは、幼稚園児の女の子。みーたんは、幼稚園児の女の子……!) (幼稚園児らしい、赤ちゃんらしい答えは……) 「う、うん! みーたん、おむちゅも、おもらちも、だいちゅき!」 「そう。どこが好きなのか、教えてくれる?」 「え、ええと……おむちゅは……ふかふかして、おふとんみたいで、とっても、きもちいいでちゅ。おもらちは……おもらちは、おちっこを、がまんちてたをだちゅと、ちゅっきり、ちまちゅ……あと、おまたのところがあったかくなって、おむちゅが、びっちょりちて、ちょれも、きもちよくて、ちゅきでちゅ……」 「へぇ……」 園長は少し驚いたように目を丸くした後、一瞬、会心の笑みを漏らしてから真顔に戻り、 「そう、どっちも好きなのね。じゃあ――大きいほうは?」 「お、おおき……は、はい、おっきいほうの、おもらちも、みーたん、だいしゅき、でちゅ……」 答えながら思い出すのは、昨日のおもらし。 駅の中心で我慢しきれずに漏らしたあの刹那の――あまりにも鮮烈な感覚が、いまだに下半身に焼き付いている。 「おなかのなかにたまってたうんちが、ぜんぶでて、ちゅごく、ちゅっきりして……いっちょに、おちりが、あちゅくなって、おちりとおむちゅのあいだで、どろんこみたいにちゅぶれて、ずっちり、おむちゅが、おもくなって、あたまがぼーっとちゅるくらい、きもちよくて、ちゅきでちゅ……」 答えは必ずしも本心ではなかったが、 「そう。ふふっ、倉石くんは本当に、おむつもおもらしも好きなのね。『おむつ組』の園児として、申し分なくふさわしいわ」 園長の反応に、和実は赤くなりながらもホッとする、が―― 「じゃあ――おむつとおもらしが大好きな倉石くん。それでおちんちんが気持ちよくなったりも、するのかしら?」 (続く)