NokiMo
jugatsu-usagi
jugatsu-usagi

fanbox


「おむつぐみ」(60)

「もと陸奥学園高等部、倉石和実です。市立**中学出身で、美術部で副部長を務め、部の運営やイベントの開催に微力を尽くし、コンテストにも――」  はじめのうち、面接は淡々と進んでいった。  和実は中央のソファに園長と向かい合って座り、簡単な自己紹介、学校での活動、これまでの経緯――通り一遍の内容を、すらすらと答えてゆく。  稲村園長は時折うなずきながら、硬い表情で見つめていたが、 「それで――すでに『おむつ組』の制服は届いたと思いますが、どうでしたか?」 「ど、どうって……園児服をベビー服にしたみたいなデザインで、すごく恥ずかしくて……おむつも当てなくちゃいけないし、ボンネットやおしゃぶりまで、その、あまりにも赤ちゃんっぽ過ぎて、恥ずかしすぎます……」 「そう。ちょっと残念ですね。とても可愛い制服ですから、もう少し気に入っていただけるかと、思ったのですが」  淡々とした口調だったが、さしもの和実もカチンときた。思わず声を高くして、 「き、気に入るわけないじゃないですか! っていうか、入学式の失敗の罰にしても、ここまで赤ちゃん扱いされるのは酷すぎ――」  言ったところで、ハッと我に返る。しかし逆に、これで落とされるなら仕方ないと開き直り、園長の言葉を待つ。  園長は特に表情を変えず――ただどこか落胆したような様子で、 「なるほど。確かに、誤解があるようですね。まずはその点について、きちんと解いておきましょうか」 「誤解……ですか?」 「ええ。まずはこの『おむつ組』ですが、今は決して、懲罰的な意味を持つクラスではありません。もともとはそうした意味合いもありましたが、今は『おむつ組』での幼稚園生活を通じて、赤ちゃんとしての日常を送り、そこからさまざまなものを学んでもらうためのクラスなのですよ」 「赤ちゃんとしての日常で、学ぶ……?」 「ええ。おとといから『制服』で過ごし、トイレ禁止、一人での着替えや食事の禁止など、赤ちゃんとして過ごす――普通の高校生であれば絶対に経験できませんよね。まして男の子のあなたが、女の子用のベビー服で過ごすなんて」 「それは……はい」 「自分では何もできず、ただ周囲にお願いして、あれこれ世話をしてもらう――自分一人でやる以上に大変なこともたくさんあります。また、自分よりずっと年下の幼稚園児と一緒にお勉強して、彼女たちと仲良くなったり、お世話されたり、可愛がられたりといった経験も、ふつうならすることはできません」 「…………」 「とうぜん、恥ずかしい思いもするでしょう。ですがその中でしか見えないことも、沢山あると思います。表面的な恥ずかしさにばかりとらわれず、そうした広い視野を持って『おむつ組』としての生活を送って欲しいのです」 「…………」  思いがけず真面目な答えに、和実は黙り込む――上手いこと言いくるめられているような気が、しないでもなかったが。 「というわけで――今後はこれが学習の一環であるという意識を持って、『おむつ組』の園児として、幼稚園児らしい、赤ちゃんらしい生活を送ってください。いいですか?」 「は、はい、判りました」 「よろしい。そのほうが可愛――こほん、そのほうがあなた自身の人間的成長にも、繋がると思いますから」 「い、いま可愛いって……」 「失礼。とりあえず口頭の試験は以上になります。何か質問がなければ、このまま次の試験に移りたいと思います」 「……はい、大丈夫です」  特に思いつかず、和実は小さくうなずく。  稲村園長はソファの横に置いてあったクリップボードを取り上げて、 「では、次の試験――『おむつ組』の園児としてきちんと振舞えるかどうか。まずは――」 「…………」 「『おむつ組』の園児らしく、自己紹介してください」 「お、『おむつ組』の園児らしく……!?」  和実は思わず、声を裏返す。 「ええ。基本的におしゃぶりを咥えてもらいますが、それでもお勉強中や、自己紹介や、お友達とお話しすることもあるでしょう。『おむつ組』として入園して、年少クラスの一員になるにあたって、今までと同じ口調や言葉遣いではおかしいでしょう? まずはその点についてもきちんとできるかどうか、試験しないといけませんから」 「そ、それってつまり、赤ちゃん言葉で――」 「そういうことです。好きなものなども幼稚園児にふさわしいものを選び、しっかりとなりきるんですよ。さぁ、どうぞ」 「う――」  確かに幼稚園の面接なら、それも必要だろう。まるきり考えていなかったほうが浅はかとはいえ、ここまで本格的に幼稚園児としての振る舞いを求められるとは思っていなかった和実は、真っ赤になって押し黙る。  しかし、 (これも勉強、これも勉強――)  自分にそう言い聞かせ、「幼稚園年少組の少女」にふさわしい自己紹介を考え、一つ一つ、口にしてゆく。 「お、『おむつ組』の、倉石、和実です。好きなものは、ぷ、プリキュアと、か、可愛い、お洋服です」 「もうちょっと舌足らずな、赤ちゃんっぽい言葉遣いのほうがいいわね。やり直してちょうだい」 「うう、ううう……お、おむちゅぐみの、くらいち、かじゅみ、でちゅ。しゅきな、ものは、ぷいきゅあと、かわいい、おようふく、でちゅ……!」  あまりにも露骨な、赤ちゃん言葉での応答。  羞恥と屈辱に和実は真っ赤になるが、 「うんうん、いいわよ」  稲村園長は静かな表情のまま――しかしどことなく笑みをこらえるように口の端を震わせながら、次を促した。   (続く)


Related Creators