「おむつぐみ」(11)
Added 2020-02-05 10:55:00 +0000 UTC玄関に残った二人は、おむつについて話し合う。 「おむつカバーもたくさんあったほうがいいですよ、二枚じゃぜんぜん足りませんから」 「あらそうなの? たくさん当てればカバーまでは濡れないかと思ってたんだけど……」 「匂いや雑菌もありますから、多めにあったほうがいいですね。それに、沢山あったほうがデザインを楽しめていいじゃないですか」 「そうねぇ。せっかくなら、いろんな色やデザインのが欲しいわよねぇ」 「あと、おむつを腰に巻くようにすると、股に当てたおむつの固定にもなるし、腰回りにボリュームが出て赤ちゃんっぽさが増すのでお勧めですよ。和実くんはほら、どうしても腰が細いですから……」 「確かにねぇ。次からは、そうしようかしら」 リビングに向かう間にもそんな会話が聞こえて、 (うう、どんどんおむつの枚数が増やされそう……) 和実は泣きそうになりながら、脱いだジャケットをテーブルの上に置き、代わり制服が入っていた箱を覗き込む。そこに残ったピンクのスモックに、 (いかにも園児服って感じで、恥ずかしすぎるよ……!) 他の制服と同じように名前を書き、頭の上からかぶる。首、両手と出して裾を整えると、 「う、うわぁ……!」 まさに園児服。襟と袖口、裾にはゴムが入っていて、締め付けられるのが落ち着かない。しかもその裾はやや短くなっていて、おむつで膨らんだ黄色ギンガムのブルマーと太腿がばっちり見えていて―― 「うっ……!」 陰嚢が竦み、痛みを発する。それはまるで、強い尿意のような―― (って、まさか、おしっこ……?) 思い至って、ぞっとする。どちらか判断がつかないが、 (と、とにかく早く戻って、裏のお姉さんには帰ってもらったほうがよさそうだ……) 恥ずかしさをこらえて玄関に戻ると、 「わぁっ、可愛い!」 和実が玄関に戻ると、楓子はまた目を輝かせて写真を撮り始める。 「幼稚園のは水色無地だけど、『おむつ組』はピンクで、しかも前身頃はギンガムチェックの切替になってるのね! 女の子らしくていいじゃない。しかもブルマーはばっちり見えるようになってるなんて、『おむつ組』らしくて素敵! 後ろ側も――うん、お尻のふりふりがちゃんと見えていいわね!」 「ほ、ほら! もう、いいでしょ……?」 「ええ、ありがとうね、和実くん」 楓子はようやく満足したように、カメラをバッグにしまい込む。 しかしその目は爛々と、和実を見つめたままで―― 「ねぇ、和実くん。おしっこ、近いんでしょ」 「えっ……!?」 真正面から言い当てられて、和実は一歩後ずさる。 楓子はにっこり笑って、 「やっぱりね。急に速足で戻ってきたし、私が後ろ側もっていっただけで見せてくれたし、妙に落ち着きがなそうだったし」 「い、いや、これはその、違う――」 「今さら恥ずかしがることなんてないのに。ねぇ、お母さん。おもらしの始末、私も手伝わせてくださいな」 「あらまぁ、助かるわ。それじゃ、二階にちょうどいい部屋があるから、そこにしようかしら。和実が幼稚園に上がる前まで使ってたんだけど、もったいないから残してあったのよ」 「わ、ぴったりですね! お手伝いさせてもらいます!」 和気藹々と話しながら、二人はゆっくり階段をのぼってゆく。 「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな、おもらしなんて――っ」 和実は慌てて否定しようとする――が、下腹部に内側からの圧迫感をおぼえて、背筋がすぅっと寒くなる。 それを見透かしたように、楓子は笑顔で振り返って、 「練習は必要よ、和実くん。おもらしってね、しようとすると意外と難しいの。できなくて膀胱炎になったら、大変でしょ? 早いうちに、おむつにおもらしする練習をしておかないと」 「おもらしの練習って……完全に、あべこべだよ……」 もともとは入学式でのおもらしが原因なのに、「おむつ組」に落とされ、今度は自分からおもらしすることになるなんて。 (一年それで生活して、元の生活に戻れるのかな……それとも、二学期三学期になったら、おもらししないような生活に戻すんだろうか……?) 募る不安に顔を曇らせているうち、二階にある目的の一室の前までやってくる。母親が鍵を取り出して、ドアノブに差し込んでいるのを見ながら、 (そう言えばこの部屋、入ったことなかったな――) ふだんは鍵がかかっていて、母親がたまに掃除しているらしい「ベビールーム」。和実の部屋のすぐ隣なのだが、物心ついて以来、足を踏み入れたことはない。 その開かずの扉が、ついにいま開かれて―― 「えっ……!?」 「わぁっ、すごい……!」 和実と楓子の目の前に開かれたそのベビールームは、一面ピンクの、女児向けとしか思えないベビールームだった。 天井は淡いピンクで、壁はピンクと白のストライプ、床は淡いピンクに濃いピンクのハートが描かれたカーペット。大窓にかかるカーテンは、ピンクに白のドット柄。部屋の中央にはパイプで作られたピンクのベビーベッドが置かれ、その上にはパステルカラーのメリーサークルが吊るされている。クローゼットやキャビネット、姿見は白だったが、流線型のラインが少女趣味だ。あちこちに可愛らしい女児ベビー服が吊るされ、壁際にはお人形や着せ替えぐるみがたくさん並んでいる。 その印象を、楓子は一言で表す。 「まるでお姫様のお部屋みたい……!」 しかし和実は驚きと戸惑いを隠せず、 「お、俺の部屋の隣に、こんな部屋が……っていうか、なんでこんな、女の子の部屋みたいなんだよ……?」 「そういえば、言ってなかったわね」 母親はゆっくりと部屋の中に入ってゆくと、キャビネットの上にある写真立てを手に取って、和実たちに向かって見せる。 その中に映っているのは、幼稚園に上がる前の幼児――ブラウスにピンクのワンピースを重ね着したようなデザインのロンパースを着た「少女」は、 「これはあなたよ、和実。幼稚園に上がるまで、女の子のベビー服を着て育てられてたのよ」