SS「おむつぐみ」(5)
Added 2020-01-30 10:42:47 +0000 UTC(こうやって一枚ずつ制服を着ていくうちに、どんどん幼稚園児の女の子に変身していってるみたいな気分……) 女児用のブラウスとおむつカバーに、精神すらも浸食されそうになる和実。もちろん本当に変身していっているわけではなく、体は160センチの少年のままなのだが――それがいっそう恥ずかしい。 しかし母親は息子の羞恥に頓着せず、 「はい、リボンも結びなさい」 「う、うん……」 渡されたリボンを、まじまじと見つめる。 襟の下に隠れる輪の部分がゴムになっていて、アジャスターで首周りを調整し、アタッチメントで留めるという、女子高生の制服リボンなどでよくある構造だったが、和実には知る由もない。プラスチックの部分が留め具だろうとあたりをつけて何とか外すことに成功し、ブラウスの襟を立てて首に巻き付け、留め直す――言葉にすれば簡単だが、見えない首元でアタッチメントを留めるのに悪戦苦闘した。 最後にアジャスターで長さを調整して、形を整える。本来は幼稚園児用のリボンのはずだが、かなり大きい。もしかしたらこれも、身長に応じていくつかのサイズがあるのかもしれなかった。 そして―― 「さ、ブルマーよ」 「うん……」 母親が渡してきたブルマーを受け取り、和実は表情を硬くする。 淡い黄色のギンガムチェックで、お尻には幾重ものフリル、吊りスカートのような肩紐が可愛らしい。さらに股間にはスナップボタンがついていて、頻繁におむつ交換することを前提とした構造だ。幼稚園児にとってすら幼すぎる新生児用のブルマーが、160センチサイズもあるのだから、もはや戯画としか思えない。 (しかもこれを、ブラウスの上から、穿かなきゃいけないんだ――) ぞわっ、と全身におぞけが立ち、おむつの中で萎えていたものが怯えたように震える。思考ととともに行動も止まり、じっと固まっていると、 「さ、いつまでも持っていてもしょうがないんだから、早く着ちゃいなさい。それとも、お母さんに穿かせてほしい?」 「うううう……じ、自分で着る……」 和実は観念して、泣きそうな声を出しながら取りかかった。 まずは左腰内側についている名前欄に記入。肩紐を左右に下ろし、ブルマー本体のウエスト部分を両手で持つ。お尻側にフリルがついているので、前後ろの判別は簡単だ。ファスナーなどはついていないが、後ろ側がインゴムになっているので大きく広がる。細身の和実なら、問題はないだろう。 「う……」 レース付きハイソックスに包まれたつま先を、ゆっくりとブルマーの中に差し入れてゆく。ゴムが入ってすぼまったと穿き口に足を通すと、締め付けるように引っかかりながら足首、ふくらはぎ、ひざ、そして太腿を擦りあげた。 同様に反対側の足も通し、最後にウエストまでひっぱりあげる。 「はぁーっ、はぁーっ……」 いつの間にか息が止まっていた。思い出したように深呼吸していると、 「ブラウスの裾はブルマーの中にしまって、肩紐も襟の下になるようにするのよ」 「う、うん……」 母親からの指示に、ウエストを広げて中にブラウスをしまい、肩紐を腕に通して、丸襟の下になるように整える。 見下ろすと、白い長袖ブラウスにピンクのリボン、そして黄色の肩紐とブルマー――そこから太腿が露出して、レースの付いたハイソックスへと続いている。 お尻に手を近づけると、ブルマー本体よりも前にフリルがふんわりと触れて、 (ふりふりしてる……こんなの、完全に赤ちゃんだよ……) (ブラウスにふりふりブルマーの組み合わせが、どう見てもベビー服って感じで恥ずかしすぎる……! 肩紐までついてるから、余計に……) (でも、これが、今の、俺の――) (信じられない、信じたくない――いま着たのだって、まるで悪夢の中みたいで、全然現実感がないけど――) (でも、体を包んでるこの感覚は、間違いなく現実なんだ……) 首元にあたるブラウスの襟と、大きなリボン。 上半身と両腕を包むブラウスの肌触りに、フリルの付いた袖口の締め付け。 肩にかかる肩紐の、意外な圧迫感。 そして股間からお尻を包むおむつの感触と、太腿の付け根にかかるおむつカバーとブルマーの締め付け、露出した太腿の頼りなさと、ふくらはぎから下を包むハイソックス―― (現実だ……これが、現実なんだ……) (俺……ほんとにベビー服みたいな「制服」を、着ちゃってるんだ……) (それで、この「制服」を着て、この一年間、幼稚園に――) 失われていた現実感が一気に戻ってきて、ついに和実の心が折れる。今まで抱え込んでいた心の叫びが、堰を切ったように溢れ出した。 「う、うう、やだ……こんな赤ちゃんみたいな制服で、幼稚園に通うなんて……」 「何を泣きごと言ってるの。もとはあなたがおもらししたのがいけないんでしょう?」 「そうだけど、いくらなんでもあんまりだよぉ!」 「決まりなんだから、仕方ないでしょう? もう高校生――じゃないけど、もう15なんだから、聞き分けなさい。それじゃ本当に、おむつの取れない赤ちゃんよ」 「だって……高校生になったと思ったら、こんな制服で幼稚園に――それも年少さんより下の、おむつが取れない赤ちゃん扱いだなんて、あんまりだよ……!」 和実にも判っている。どれほどここで訴えたところで、何の意味もないことは。しかしそれでも、たった一度の過ちが悪夢をもたらした理不尽を、叫ばずにはいられなかった。 母親も少し気の毒になってか、やや語調を柔らかくして、 「ほら、あとはもうちょっとだから、我慢して着ちゃいなさい。それで問題がないようなら、すぐに脱いで構わないから」 「うぅ……うん……」 胸裏に溜まっていたものを吐き出したことで、少し落ち着いた。 和実はなけなしの意志を奮い立たせて、最後の一枚――水色のイートンジャケットに向き合うのだった。 (続く)
Comments
ありがとうございます~! どうなってしまうんでしょうねぇ…早く登園させてあげたいです…
十月兔
2020-01-30 10:59:39 +0000 UTC毎日公開を楽しみにしてます。 家で着るだけでもこんなに恥ずかしがっているのに、登園するといったいどうなってしまうんでしょうね・・・
絹屋敷
2020-01-30 10:55:08 +0000 UTC