第9話「デートと初めてと」(4)
Added 2020-01-22 10:32:48 +0000 UTC最初に二人が立ち寄ったのは、駅ビル二階のレディースファッションフロアだった。 特に東側の一角は、ティーンズからユース向けのショップが多い。その中で、紗月が「彼女」をエスコートしたのは、お嬢様系ファッションブランド「スノウベル」だった。 入り口のマネキンが着ているのは、フリル付きの中華風ブラウスと、スモーキーピンクのパフスリーブワンピースを重ねた上品なコーディネート。ワンピースは牡丹柄で、チャイナ風に左右にスリットが入っていて、そこから白いアンダースカートが覗いている。頭には、セットのシニョンも飾られていた。 他にもピンタックブラウスに軍服風のシックなジャンパースカートや、シンプルなレトロワンピースなど――系統としては清楚系とロリィタ系の中間で、フリルやレースは控えめながらも、お人形さんのような可愛らしさが特徴である。 「すごい、可愛い服ばっかり……!」 まだ近づいただけなのに、店内に見える洋服に声を漏らす夢月。 紗月は会心の笑みを浮かべて、 「お兄ちゃん、こういうの好きでしょ?」 「う、うん。見てるだけで、ドキドキしてくる……」 「おちんちんがムズムズしてくる、の間違いじゃなくて?」 「う……それも、そうだけど……」 「お兄ちゃんったら、ヘンタイさんなんだから。ちなみにあたしたちが着てるのも、『スノウベル』のなんだよ?」 「やっぱり。道理で似てると思った」 そんな話をしながら店に近づいてゆくと、入り口近くで商品をレイアウトしていた店員がすぐに二人に気付いて、 「いらっしゃいませー。あ、お二人がお召しになってるの、うちの商品ですよね? ご愛用下さりありがとうございます。とてもお似合いですよー」 (愛用って言っても、アプリの力で出てきたものなんだけどな……) 夢月はちょっぴり後ろめたい気分になるが、紗月は気にした様子もなく、 「こちらこそ、いつも可愛いお洋服を出してくれて、ありがとうございますー。どのお洋服もすごく可愛くて、気に入ってるんですよ。特に、お兄ちゃんが」 「さ、紗月!?」 いきなり男だとバラされて、思わず叫ぶ夢月。 しかし店員は笑顔のまま、 「あら、それはどうもありがとうございます。お兄さまもそのジャンパースカート、とてもお似合いですわ」 「ど、どうも……」 (俺が男だってことに対して店員の反応が薄いのも、アプリの影響なんだろうけど、心臓に悪いなぁ……) まだ痛いほど高鳴る胸を、夢月はブラウスの上からさすって落ち着けようとする――が、下につけているブラジャーの感触に、またドキドキしてしまう。 しかしそのしぐさを店員は誤解したようで、 「ええと……バストが小さいお客様にぴったりの商品もございますので、良ければご案内いたしましょうか?」 「え? あの、そういうつもりじゃ――」 「さぁ、こちらへどうぞ。当店では、どんな体系のお客様にでもご満足いただける商品を用意させていただいておりますので」 「いや、あの――」 話を聞かない店員に手を引かれて、夢月はずるずると店内に連れ込まれた。その後から、呆れ笑いを浮かべた紗月が追いかける。 そして、10分後。 「ど、どうでしょう……?」 夢月が試着室のカーテンを開けて出てくると、前で待っていた紗月と店員は「おおー」と感嘆の声を漏らした。 「いいじゃない、お兄ちゃん。すっごく可愛いわよ」 「お客様、とてもよくお似合いです! 私の眼に狂いはありませんでしたね!」 「う、う……!」 手柄顔で笑みを浮かべる店員に、夢月は真っ赤になって押し黙る。 店員が半ば強引に勧めて試着させたのは、「スノウベル」の中でもとびきり可愛い、ブラウスとジャンパースカートだった。 ブラウスの大きな襟は、ふちがピンクの花が咲いているような飾りがあしらわれ、背中側はセーラーカラーに似たスクエア状。肩と袖にはふんわりとしたギャザーが寄せられ、袖口はこちらも花飾りがついている。襟元には大きな赤いリボンを結び、その縁にも花のようなレースがあしらわれていた。 ジャンパースカートはピンクと白のストライプに、上品なバラのプリントだ。肩紐の外側やスカートの裾には大きな白いフリルが広がり、背中側には大きなピンクのリボンを結んで、ウエストを絞めている。中に穿いたパニエのおかげで、スカート自体も大きく膨らんでいた。 頭にはベレー帽の代わりに、こちらもセットの花飾りヘッドレス。ガーターベルトとストッキングも、白とピンクを基調にしたものに履き替えていた。 「こちら、新作の花園ジャンパースカートシリーズとなっています。スレンダーで可愛らしいお客様には、フリルやスカートでボリュームを出しつつ、可愛らしさをさらに引き立てるピンクの商品がぴったりかと!」 「た、確かに、すごく可愛いけど……可愛すぎて、落ち着かない……!」 嫌というわけではなく、どちらかと言えば好きなのだが――どうしても男子高校生としての羞恥心と違和感を消せず、心拍が亢進してしまうのだ。 しかもその鼓動の大きさに比例して、劣情もまた昂って―― (続く)