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第9話「デートと初めてと」(2)

 朝ご飯を終え(母親は当然のように驚きもしなかった)部屋に戻ってきたところで、夢月は妹に確認する。 「じゃあ、いつごろ出よっか?」 「それなんだけど、あたしは先に出てるから、お兄ちゃんはあとから来てくれる?」 「え? 一緒には行かないの?」 「うん。北口のベンチのところで待ち合わせってことで」 「いいけど……なんだってそんな、面倒なことを」  夢月の疑問に、紗月は悪戯っぽく笑って、 「せっかくのデートなんだもん、それっぽいことしたいなって」 「デ……」  そういえばそうだった――夢月は今さらながら、自分の妹のアブノーマルさを思い出す。  三村兄妹は仲がいい。つい最近までお風呂も一緒に入っていたし、抱き着いたり、手を握ったりといったスキンシップも、世間一般の兄妹よりはるかに多かった。とはいえ夢月の側としては、「ちょっとブラコンシスコン気味かもなぁ」くらいに無邪気に思っていたのだが――あいにく紗月のほうは、そんな兄の想像よりはるかに大人びていた。  つまりは、兄妹愛の禁忌。  最近の生活を一変させているアプリについても、これを使って兄との関係を進めようと狙っていた節さえあった。そして実際に、朝立ちのお世話やらシックスナインやらフェラチオやら、数々の「イベント」を通して、完全にアウトな行為に及んでしまっている。 さらに、 (いずれあたしと、エッチするってことだよ。お兄ちゃん)  致命的な一線まで越える気満々の妹に、夢月はしょうじき頭が痛い。これまでのアプリがしてきた悪さを鑑みるに、アプリがイベントで発生させたら、問答無用で妹とセックスさせられるだろう。  つまりは今日の外出も、夢月にとっては「妹とのお出かけ」だが、紗月にとっては「兄とのデート」なのだ。  妹からの道ならぬ思慕に、夢月が頭を抱えていると、 「じゃ、そういうことだから駅前に11時ね! あたし、先に行ってるから!」  紗月はそう言って、あっさり部屋を出て行ってしまった。  あとに残された夢月は呆然としていたが、 「……俺のほうは、ゆっくり準備してから行くか。こういうのは初めてだから、ちゃんといろいろ確認しないとな」  小さく呟いて、いそいそと支度にかかる。なんだかんだと不安はあるが、妹ととの外出は久しぶりで楽しみだった。 「それに――この服で出かけるのも、ちょっと楽しみかも……」  鏡に映る、ブラウスとジャンパースカートのセットを着た、自分の姿。確かにこれなら、デートするにはぴったりの格好だ。 (本当は、自分で着るんじゃなくて、女の子にこういう服を着てもらって、デートしたかったんだけどなぁ……) (ま、自分で着てても、悪い気はしないけど)  ブラウスもコルセットスカートもストッキングも、どちらかというと肌を包み、締め付ける感触が窮屈な服装である。およそリラックスできる格好ではなかったが、それがまた妙な緊張感があってたまらない。それでいて太腿だけが露出しているのも、すぐに下着が見えてしまいそうで恥ずかしかった。  鏡に近づいて、顔を覗き込む。女顔とはいえ化粧もしたほうがいいかと思っていたが、すでにされているようだ。長いつけまつげに、やや濃いめのチークと、ピンクのルージュ。髪もふんわりと内側にカールしていて、やや昔ながらの清純美少女に仕上がっている。 (ちょっとメンヘラっぽいとか、オタサーの姫感もあるけど) (ま、自分でやったらこんなに可愛くはならないから、アプリの力に感謝ってところかな……そのうち自分でも、やってみたくはあるけど……)  妹とのあれこれは別として、女装自体はだいぶ楽しめる心境になっている。 髪に指を通してその滑らかさにうっとりしたり、服の上から手で触って衣擦れの感触を楽しんだりしていると、いつしかけっこうな時間が経っていた。 「おっと、そろそろ出ないと。バッグは……あった」  いつもはスクールバッグが置かれている場所――ここ最近はアプリのせいで、ランドセルやら通園バッグやらに変わっていることもあったが、そこに女性用のショルダーバッグが置かれていた。やや暗めのピンクで、まるでスカートのような三段フリルがついているのが、いかにもデート用だ。  夢月が元から持っていたものではないから、とうぜんアプリが用意したものだろう。中身も確認してみると、 「女性用の長財布に、化粧ポーチ……この奥のは……な、ナプキン!? うう、こんなもの、必要になるはずないのに……」  真っ赤になりながら、それでもしまい込んで肩にかける。最後にいちおう、鏡で全身をチェックしたのち、 「ふぅ……ともかく、これで大丈夫かな」  一階に下りて、出かける前に母親に声を掛けようとリビングを覗く。ソファでテレビを見てくつろいでいるところを発見して、 「お母さん、出かけてくるね」 「行ってらっしゃい。紗月とのデート、うまくやるのよ?」 「で、デートなんかじゃ……!」 「あら、紗月はお兄ちゃんとデートって言ってたけど。夕飯もいらないし、朝帰りになるからって」 「紗月のやつ……」 「いいじゃない、兄妹なんだから。セックスの時も、ちゃんとお兄ちゃんらしく、エスコートするのよ?」 「兄妹だからよくないんでしょっ!」  アプリのせいでいろいろおかしくなっている母親の反応に、夢月は頭を抱えつつ、 「それじゃ――行ってきます」 「行ってらっしゃい。お母さん、最初は女の子がいいわね」 「違うって言ってるでしょ!」  玄関に向かい、そこに置かれていたパンプスを履く。色はピンクで、ソールにリボンがついた可愛らしい一足だ。 高いヒールに戸惑いながらも、夢月はゆっくり外に踏み出し――妹との「デート」に向かうのだった。   (続く)


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