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第9話「デートと初めてと」(1)

 朝八時。  男子高校生の三村夢月は、ピンクのプリンセスネグリジェを着て、泥のように眠りこけていた。平日ならとっくに起きて学校に行く支度を始めている時間だが、日曜とあって母親も起こしには来ない。おかげで何の気兼ねもなく、眠り姫のごとく寝ていられた。  なにしろ昨日は、いろいろなことがあったのだ。女児服への着替えから、妹の友達との「ごっこ遊び」で幼稚園児の役を割り振られて、さらに幼い園児服へ。そのまま幼稚園へと連れて行かれ、ちょうど開かれていた「お遊戯会」に飛び入り参加させられて、二度の射精から、とどめのおもらし――日記につけたらそれだけで中編小説くらいになってしまいそうな出来事の連続に、すっかり疲労困憊しきっていた。  入浴後はネグリジェに着替えてそのまま寝入ってしまったが――よほど疲れていたのか、まだ起きる気配はなかった。  しかし―― 「おはよう、お兄ちゃん。朝だよ!」  すでに起き出して着替えも済ませていた妹の紗月が、その安眠を一気に粉砕した。ウキウキしながら大窓を開け、薄暗い部屋が明るくなって、 「んー……ふゎーあ」  夢月はベッドに起き上がると、大きく伸びをしながらあくびする。目をこすりながら妹を見て、 「あ、おはよう紗月」 「おはよう、お兄ちゃん! 今日はいい天気ね!」 「……なんか、妙にテンション高くない?」 「そ、そんなことないったら。さ、着替えて着替えて」 「うん」  夢月はベッドから立ち上がり、もう一回背伸びをする。  寝ぼけ眼で部屋を見回すと、室内は昨日のイベントの名残か、いっそう女の子っぽくなっていた。ピンクの女児用勉強机に置いてあったスマートフォンを手にして鏡の前に移動、毎朝の日課となった「おもらしガールリンク」を起動、アバターをクリックして今日の服を確認すると、  服装「セーラーブラウス+ジャンパースカート」  その瞬間、もはやおなじみの早着替えで、夢月は画面のアバターと同じ服装になっていた。  トップスは、ピンクのラインとフリルがついた、セーラー襟のブラウス。ボタンの左右にはレースのフリル、袖口も同じようになっていて、襟元には金のボタンがついた赤いリボンがあしらわれている。  ボトムスは、紺地に金糸の細いストライプが入ったジャンパースカート――というよりサスペンダーの付いたハイウエストスカートで、ブラウスと合わせて胸元を強調するようなデザインになっている。あいにく、体型変化の起きていない夢月の胸では、ブラジャーをつけていても微かに膨らんでいる程度だったが、これはこれで清楚な印象だ。  ウエスト部分はコルセットスカートのように幅広で、前に金色のボタンがダブル。スカートの裾は短く、太腿はほとんど丸出しで、黒いレースのガーターで、同じく黒のストッキングを留めている。  髪は栗色のセミロングで、頭にはワインレッドのベレー帽をかぶっていた。自分とは思えないくらい似合ってしまっているのが、ちょっと怖いくらいだった。もしかしたら、顔や骨格も変更されているのかもしれない。 「か、可愛い……!」  思わずつぶやく。  紗月も後ろから鏡を覗き込んで、 「いいじゃない。上品で、でもちょっとセクシーな感じもあって。なんだかデートに行くときみたい」 「うん。こういうのは、けっこう好きかも。……自分が着るのは、ちょっと恥ずかしいけど」 「んふふっ、お兄ちゃん、知ってる? こういう、清純っぽいけど脱がせるのが難しいファッションって、俗に『童貞を殺す服』って呼ばれてるんだよ?」 「どっ――」  いまだ性経験なしの夢月は、顔を真っ赤にする。 「た、確かに、ど、どどど、童貞、だけどさ……」 「あははっ、そんなに慌てなくても。どうせ今日――おっと、それよりもほら、あたしの服も見て。お揃いみたいでピッタリじゃない?」 「ん? あ、ほんとだ」  腰に手を当てて薄い胸を張る妹の服装に、夢月はうなずく。  カッターシャツのブラウスは、フリルもレースもないシンプルなもので、肩や袖口にギャザーがあるのみ。襟にはシルバーのペンダントがついたループタイを結んでいる。サスペンダー付きのハーフパンツは、夢月のスカートと同じく紺地に細い金のストライプ。髪型もベリーショートになっているせいで、まるで少年のようないでたちだ。 「へぇ、可愛いじゃん。っていうか、なんで俺がスカートで、紗月がパンツなんだよ……せめて逆じゃ……」 「まぁまぁ。嫌いじゃないでしょ?」 「それは……そうだけど」  しぶしぶ認める。どちらか好きなほうを着ていいと言われたら、恥ずかしがりながらもスカートのほうを選んだだろう。 「なんだかんだいって、すっかり女の子の格好を楽しんでるよなぁ、俺……」 「いいじゃない。せっかくだから楽しまないと、でしょ?」 「そうだね。どうせなら、これで出かけてみたいかも」 「ならお兄ちゃん、休日なんだし、駅のほうまで行ってみない?」 「駅のほうまで……?」  ドキッとする。昨日の今日で、出かければまたとんでもないイベントが起きることは想定に難くない。また恥ずかしいことになったり、いろいろな服を着せられたり、エッチな目に遭ったりするのだろう。 (でも――) 「……うん。朝ご飯を食べてちょっとしたら、いこっか」 「やったぁ!」  紗月は笑顔でガッツポーズする。  妹の嬉しそうな姿に、夢月もまた笑顔になるが――彼女の本当の目論見を、彼はまだ、知る由もないのだった。   (続く)


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