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SS「スカートめくり」(1)

 チャイムと共に最後の算数の授業が終わり、五年一組の教室は騒がしくなる。  担任の澤山教諭は手を叩いて、 「はいみんな、静かにして。日直の黒田くん、号令をお願い」 「はい。起立、礼、着席」  雑な号令に、児童たちも雑に従う。ほとんどの子は早くも帰り支度にかかっていた。  澤山教諭は緩んだ教室の空気に苦笑しつつ、それでもやるべきことを進める。 「さっそくだけど、今日の帰りの会を始めます。誰か、話し合いたいことがある人は手を挙げて――」  言いかけたところで、前のほうの席に座った女子児童が起立して手を挙げた。 「はい、先生!」 「中村さん、どうぞ」 「はい。新井くんのことなんですけど」  クラス委員でもある中村香苗がそう言った瞬間に、教室に走った空気を言語化すると「またか」であった。男子の多くはうんざりと、女子のほうはやや厳しい表情で、彼女の訴えを待つ。 「今日もまた、スカートめくりをしたんです。二時間目と三時間目の間に佐藤さん、お昼休み中に田口さんと南さんがやられてます。今日だけじゃありません。もう毎日のように、誰かがやられてます。新井くんの女子への悪戯に、ゲンセーなショバツをもとめます」 「……だそうだけど、新井くん。本当?」  クラスの視線が、一人の男子――新井浩太に集まる。  小柄で、顔立ちそのものは整っているのだが、いかにもやんちゃな表情をした少年だ。わざとらしく頭の後ろで手を組み、大きく椅子ごと後ろに傾きながら、 「べーつに、それがどーしたんだよー。スカートなんか穿いてるほうが悪いんだろー」 「なによ! めくって欲しくて穿いてるわけじゃ――」 「落ち着いて、佐藤さん」  激昂しかかる少女を、香苗が止める。 「みんなうんざりって顔してるけど、私たちもうんざりなんです。こんなこと、毎日のように言いたくありません。新井くんには、ちゃんと反省してもらわないと」 「へーへー、ごめんなさいねー。これでいいんだろー?」  笑いながら言う浩太に、男子の一部が追従し、教室の空気はさらに悪くなる。  香苗は浩太を相手にせず、澤山教諭に訴える。 「……と、謝ってもらっても意味はありません。そこで、私からショバツを提案します。スカートめくり犯の新井くんに、ぴったりのショバツを」 「そうね。言ってちょうだい、中村さん」 「はい。それは――」  香苗の提案する「処罰」に、クラスは浩太本人を除く満場一致で賛同し――  そして、十分後。  スカートめくり被害者の女子三人に取り囲まれて女子トイレに連行され、「処罰」を受けて戻ってきた新井浩太の姿に、教室は爆笑の渦に包まれた。 「うわっ、女子みてーじゃん!」 「あはははっ、似合ってるわよー」  口々に叫ぶクラスメイト達。  その前で、罪人として女子二人に左右から押さえ込まれたままの浩太は、真っ赤になって歯噛みする。 「くっ……!」  先ほどまではTシャツとハーフパンツだった彼の服装は、今や一変していた。  丸首にフリル襟がついた、ピンクのパフスリーブTシャツ。  水色の、デニムジャンパースカート。胸元には、ウサギの女の子のアップリケがついている。  完全に女児服、それも低学年用のデザインである。もともとは香苗のお下がりだったが、男子の中でも小柄な浩太になら、余裕で着せることができたのだ。おまけに、やや伸びていた髪をピンクのボールがついたゴムでくくられ、短いツインピッグテールにされている。  これが、香苗の提案した「処罰」だった。「どうせ今日もスカートめくりするのだろう」と考えた彼女は、あらかじめこの服を用意しておいたのだ。 「うんうん、可愛いわよ、新井くん。それとも、ヒロコちゃんって呼んだほうがいいかな?」 「ふ、ふざけるなっ! いいから早く、服を返せよっ!」 「ダメに決まってるでしょ。それに、バツはまだ済んでないわよ」  香苗はそう言って、爛々と目を輝かせるクラスメイト達に向かい、 「さて、今まで新井くんにスカートめくりされたことがある子は、手を上げて」 「はーい!」  女子が一人残らず手を上げる。便乗ではなく、全員が一再ならず被害を受けてきたのだ。  香苗は満面の笑みで、 「じゃあみんな、一人ずつ前に出て、新井くんのスカートをめくってちょうだい。目には目を、歯には歯を――スカートめくりには、スカートめくりを、よ」 「や、やめろっ、そんなっ、恥ずかしい――」 「ジゴージトクよ。みんなの前に下着を晒される恥ずかしさ、思い知りなさい」 「う、うう……! おい、ユート! シンゴ! 助けてくれよっ!」  なおも往生際悪く、浩太は友人に助けを求めるが、 「俺しーらねっ。やったのはコータだろ?」 「そーだそーだ。可愛いぞー、ヒロコちゃーん」  なんとも友情に篤い返事に、拳を握るほかない。  その間にも最初の女子が近づいてきて―― 「よくもあたしのスカート、めくってくれたわね。お返ししてあげる」 「や、やめっ……!」 「誰がやめるかっ!」  そう叫んで、彼女は浩太のスカートに手をかけ、勢い良くめくりあげた。   (続く)


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