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第8話「女児服とごっこ遊びと」(10)

 衆目に晒されつつ大通りを五分ほど歩いたところで、 「おおー、見えてきた!」  「榛名お姉ちゃん」がはしゃいだ声を上げる。  敷地を囲う壁には、園児の手によるものと思われる可愛らしい動物や女の子が描かれ、二階建ての園舎から滑り台がついているのがいかにも幼稚園らしかった。狭い校庭には、遊具の類も設置されている。  門のところには保育士さんと思われる若い女性が立っていて、夢月たちを見ると笑顔で会釈する。 「こんにちは、保育士の佐々木志乃です。今日はよろしくお願いしますね」 「附属高校一年の、東雲です。こちらこそ、よろしくお願いしますね、志乃先生」  答えたのは、幼稚園での交流会に参加する東雲神奈。  夢月はその後ろで、なるべく目立たたないように隠れる。単に「ごっこ遊び」で来ただけなのだ。できることならスルーされて、これ以上トラブルもなく帰れることを祈っていたが、その願いもまたあっさりと打ち砕かれる。  志乃先生は夢月に目を向けると、 「あら、そっちの子は、年少さんかしら? 初めまして」 「ちっ、ちがいます!」 「え? でもその制服、うちの年少さんの制服よね? どうしたのかしら?」 「そ、その、これは……!」 「ほら夢月ちゃん、まずはちゃんと、志乃先生に挨拶と自己紹介なさい」 「う……は、はい……」  神奈に促され、夢月は改めて志乃先生にお辞儀する。 「は、はじめまして。みむら、むつきです」 「まぁ、年少さんなのにちゃんとお名前が言えるなんて、偉いわね。むーちゃん、ってよべばいいかしら? むーちゃん、いくつ?」 「は、はい! ええと、あの、じゅうごです……」  本当の年齢を口にさせられると、改めて恥ずかしい。 「ふふ、15歳ってことは、高校生なのかしら。しかも――」 志乃先生は、夢月のスカートの前のふくらみをちらりと見てから、 「むーちゃん、ほんとは男の子なのよね?」 「は、はい……むーちゃんは、おとこのこ、です……」 「ふふ、そうなの。うんうん、でも、年少さんの制服がとっても良く似合ってるわよ」 「あ、ありがとうございます……」 (やっぱり一目で、俺が男だってみんな分かっちゃうんだ……) (そりゃそうだよね、こんなにおちんちんを勃ててるんだから……アプリの出鱈目な力がなければ、とっくに通報されてるレベルの変態行為だし……) (うう、さすがに楽しむどころじゃない恥ずかしさで死にそう……!)  改めて消え入りそうになっていると、 「それで、どうして男子高校生の夢月ちゃんは、年少さんの格好をしてるのかな? ひょっとして、お遊戯会に参加したいの?」 「ち、ちがいます! これはその――」 「ごっこ遊びで、むーちゃんは園児役なんだ! だからお姉ちゃんのあたしが、幼稚園に連れてきてあげたんだ!」  横から「榛名お姉ちゃん」が説明する。  志乃先生はその一言でおおよその事情を察したようで、 「へぇー、そうなんだ。ふふ、ま、どっちでもいいわ。せっかくだから、むーちゃんも、一緒にお遊戯会に参加してちょうだい」 「えつ、あ、あの、むーちゃんは……!」 「あははっ、むーちゃんは、だなんて。本当に年少さんになりきってるのね。いいわよ、恥ずかしがることはないわ。こんなに可愛い『年少さん』なら、年長さんのお姉ちゃんたちもみんな優しく歓迎してくれると思うわ」 「ほ、ほんとにいいですからっ!」  真っ赤な顔の前で両手を振る夢月。  しかしその手を、二人の「お姉ちゃん」ががっしりと掴んて、 「まぁまぁ、先生もこうおっしゃってるんだし、お言葉に甘えましょう? 私もせっかくなら、園児のむーちゃんと遊びたいしね」 「むーちゃんは園児さんなんだから、お遊戯会にでないとな! 」  グイっと引っ張られると、夢月はその図体に似合わぬ非力さで引きずられてしまう。 「そ、そんなぁ!」 「ふふっ、いらっしゃい、むーちゃん」  志乃先生は笑顔で幼稚園の中に案内して、 「まずはお姉ちゃんたちが来る前に、他の子たちに紹介してあげるわね。それにまだ時間があるから、お歌とお遊戯も練習して、お遊戯会にも参加してちょうだい。ちょうど一人お休みだから、その子のところに入ってもらえばいいわ」 「む、むーちゃん、おゆうぎかいにもでるの……!?」 「ええ。東雲さん、悪いけどここで待って、他の子が来たら二階の保育士室に来るように言ってくれる? 榛名ちゃんは、保護者として一緒に来てちょうだいね」 「はい、わかりました」 「はーい! ほら、むーちゃん、一緒に行こう!」 「や、やああっ、まって、かんなおねえちゃん、たすけてぇっ!?」  悲鳴もむなしく、彼は「榛名お姉ちゃん」に引っ張られて、幼稚園へと連れて行かれるのだった。   (続く)


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