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連載小説 第五話「入学式とお友達と」(4)

「ふぅー、ふぅーっ……」  深呼吸して落ち着けると、お尻に手を回し、左手で根元を持ち、右手でつまんだファスナーを上げてゆく。しかしなにぶん初めてとあって、何度もブラウスを噛んでしまい、さらには半ばほどで止まってしまう。 「さ、紗月、悪いけど、ファスナー、あげてくれる?」 「うん、お安い御用よ。あ、でも――」 「な、なに?」 「せっかくだから、それっぽい呼び方をしてほしいなぁ。ほら、いまってあたしのほうが在校生で、お兄ちゃんのほうが新入生ってことじゃん?」 「う、うん……?」  意図がつかめず夢月が混乱していると、 「つまり今のお兄ちゃんは、お兄ちゃんじゃなくて、あたしの妹の夢月ちゃんってことになるわよね?」 「うん……」 「なら逆に、夢月ちゃんは、あたしのことを何て呼べばいいのか、判るよね?」 「う……」  妹が何を言わせようとしたがっているのか、夢月はようやく察する。 余りにも羞恥に満ちた、禁忌の一線。 しかしだからこそ、それを越えることに昂奮をおぼえてしまい―― 「お、お願い、ファスナーを、上げて、ちょうだい、紗月お姉ちゃん……」 「んふっ、んふふふふふっ」  いっそう可愛らしい声で「おねがい」する夢月。  兄妹が逆転した倒錯的なシチュエーションに、紗月は朱に染まった頬に手を当てて、うっとりと呟く。 「ああ、可愛い、可愛い……! ほんとうに、入学スーツのお着換えをお姉ちゃんにおねだりする新一年生みたい……んふふっ、なんだか、癖になっちゃいそう……!」 「う、うう……」  言ってしまった後で、夢月は恥ずかしさに悶える。しかし同時に、湧きあがる羞恥がいっそうの快感となって胸を満たしていた。  紗月は熱っぽい吐息を漏らしながら、ひとしきり嬉しそうに身をくねらせていたが、 「んふふっ、それじゃあ、可愛い可愛い妹の紗月ちゃんのお願い、お姉ちゃんが聞いてあげないとね。さ、背中を向けてちょうだい」 「うん……」  言われたとおりに背中を向けると、ファスナーが音を立てて上がってゆく。やがて襟の後ろまで達すると、上半身がぴっちりとジャンパースカートに包まれ、締め付けられた。 「んっ……!」 「いいじゃない、可愛いわよ、夢月ちゃん。ほら、襟を出して、リボンを結んで」 「うん……」  ジャンパースカートを着たときに下になってしまった襟を引っ張り出して軽く立て、大きな白いリボンを結ぶ。襟を戻したところで、 「ほら、夢月ちゃん。鏡で見てごらん」  紗月の声に振り向くと、彼女のすぐ横に置かれた姿見を、真正面から目にしてしまう。 「え……あっ……!」  そこに映る自分の姿に、夢月は目をみはって呟いた。 「これが、俺……?」  現在一五歳、現役男子高校生である少年、三村夢月。  しかしそこに映っているのは、どう見でも女子小学生――それも入学式に向かう新一年生だった。白い丸襟のブラウスに、ピンクチェックの三段フリルティアードジャンパースカートと、大きな白いリボン。今どき珍しい短めのおかっぱ頭も、よく似合っている。 「どう? 入学スーツの着心地は?」 「う、うん……今まで着てた服と違って、すごく、ドキドキする……」  「お姉ちゃん」の問いに、夢月は心なしか幼い口調で答える。  柔らかなコットンのキャミソールと、滑らかなサテン生地のブラウス。そしてそれを包んで軽く締め付ける、しっかりとしたジャンパースカート。  手首の部分できゅっとすぼまり、そこから大きくフリルが広がるブラウスの袖口。  大きさのせいでやや重い、襟元のリボン。  そして、存在感を主張する上半身とは対照的に、大きく広がっているせいで下着一枚のように頼りないフリルスカート。  先ほどまで着せられていた女子小学生制服のジャンパースカートを、さらに極端にしたような着心地に、夢月はすっかり魅せられていた。 (自分で着るって言って、良かった……アプリで着せられるだけだったら、こんなに気持ちよくなれなかっただろうし……) (でも、あれだけ恥ずかしいって言ってたのに、結局こうやって、自分で着て……しかもそれがすごく気持ちいいだなんて……) (俺、ほんと変態なんだ……)  今まで抵抗してきた事実を、すぅっと飲み込んでしまう。少なくとも女装については、もはや自分にさえ言い訳できないほどに、快感として受け入れてしまっている。 「んふふっ、夢月ちゃんが気に入ってくれて、よかったわ。さ、こっちのボレロも羽織っちゃいましょうね」 「うん」  夢月は顔を真っ赤にしながらも、「お姉ちゃん」の手からボレロを羽織る。  淵のところどころにリボンがついた、グレーのボレロ。 先ほどハンガーから外した時も感じたが、表面がざらっとした厚手の生地は独特だ。カチッとした硬いシルエットが、フェミニンなアンサンブルにフォーマルな印象を与える。 「最後に、左胸にお花のコサージュをつけて――あ、ソックスも、レース付きのに履き替えなくっちゃね」 「うん」  胸元にコサージュをつけてもらいながら、ソックスを履き替える。小学生用の白のハイソックスから、キッズフォーマルのレース付きショートソックスへ。  さいごに、最初に脱いだ通学帽をかぶり直せば―― 「着ちゃった……女児用の、入学スーツを……!」  鏡の中の「新一年生の少女」を見つめて、夢月は戦慄とともに呟いた。   (続く) ※(3)に通学帽を脱ぐ描写を追加しました。ご了承ください。

Comments

ありがとうございます! 逆転兄妹シチュ大好きです!

十月兔

ありがとうございます~! 定番のテンプレセリフですが、入れずにはいられない……!

十月兔

「これが、俺……?」 これだよ、これ! 女装小説にはこの台詞がなくっちゃ!

amuchi

いいね!妹の夢月ちゃんと紗月お姉ちゃんなんてwww


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