GOD EATER―carnival・blossom―……1
Added 2023-03-15 09:54:02 +0000 UTC西暦2069年。アラガミ出現により荒廃した世界。人類はあらゆる物を喰らい尽くすアラガミにより衰退を余儀なくされた。神を喰らいしフェンリル、それに属するゴッドイーターのみが彼らに対抗出来た。フェンリルの庇護下でならば、人類は生存が許されアラガミを倒す術を確立させていった。フェンリル施設「ハイヴ」にアラガミに捕食されにくい防壁を造り、そこを中心にゴッドイーター達が防衛、または研究の為に日々アラガミと戦っている。 しかし人類全てがそういう訳にもいかない。偏食因子に適合しない人間は、フェンリルの関係者及びゴッドイーターの家族以外は「ハイヴ」からも閉め出された。「ハイヴ」の食料生産プラントの食料自給率の限界、居住区の圧迫、ゴッドイーター達の優遇……全ての人間を受け入れてはパンクは目に見えていた。 そうなれば、フェンリルの庇護さえ受けられない彼ら何処にいくのか。アラガミの胃袋か、野垂れ死にか。中には支援するフェンリル職員も居るが、僅かな食料や物資を与えるに程度に留まる。結局のところ棄てられた彼らは旅を続けるか、どこかに身を寄せ留まるしかない。 その中では幸運にも比較的安全と呼べる場所にたどり着ける者たちも居る。建設途中で破棄された地下に広がるハイヴ。地盤から倒壊の危険性アリとしながらも無理矢理資産家達が造らせた、対アラガミ用シェルター。インフラ設備は整い、最低限の生活には困らない場所だ。そんな場所を転々とする者達が居る。 それはかつて栄華を誇った人類の生き残りたちだった 「た、ただいま……戻りました」 鉄材や藁で作られた雑な住みか。がらくたを積み上げた家モドキだが、少女の帰る唯一の場所でもある。 「あ、あの……」 恐る恐る中を覗き、声をかける。曲がりなりにも自宅と言うのに、少女はびくびくと震えながら家主の返事を待つ。寝ているのか反応はない。 「……今日の配給です。置いておきますね……」 中は狭く異臭がする。まる一日外にも出ていない。少女が枕元にお盆を載せると、 「きゃ!!」 「この化け物が!!」 伸ばした腕を捕まれ、そのまま押し倒される。年老いた男の顔は憤怒に染まっている。 「俺を喰いに来たか!アラガミめ!アラガミめ!死ね!死ね!」 「やめ……」 「人のふりして俺を喰いにきたんだろ!!ユミもそんな風に騙して!喰ったんだろうが!」 「ぼくは……そんな事……」 男は錯乱している。少女の言葉など耳に入らない。彼女の頭を何度も殴り、蹴飛ばす。やがて力尽きたのか、男は息を荒げながら、それでもなお憎しみを込めた目で彼女を睨み付ける。 その目に恐怖を感じ、彼女はただ黙って耐え続けるしか無かった。 「いたい……」 男が寝静まった頃、ようやく動ける様になった。痛む身体を起こし、床に転がる食べ物を手に取る。パンと水だけの食事。もうずっとこればかりだ。 「お腹すいたな……」 食べ終えると、今度は寝床に戻る。ボロボロで薄い毛布一枚あるだけだが、今の彼女には十分過ぎる贅沢だ。 ここはかつて京都の財閥が私財で築き上げた対アラガミシェルター。建設途中で廃棄され、防壁だけが残された廃墟。ここに残っているのはフェンリルに見捨てられた人間達だけ。いつアラガミが防壁を喰い破り襲ってくるかも分からない危険な場所。 そんな場所で少女……サクラは生きていた。桜色の長い美しい髪を持ち、透き通る様な白い肌を持つ美少女だ。外見は10代後半に見え、大人びた雰囲気を持っている。服装は粗末な貫頭衣のみ。靴すら履いていない。豊満な胸を持つが手足は細く、肌は荒れている。彼女がまともな生活をしていない証左である。 「また殴られたの?」 声をかけられ、サクラはびくりと震える。振り返るとそこに居たのは同じ区域に住む黒髪の少年。彼は心配そうに彼女の顔をのぞき込む。年は10歳ほどで、身長もサクラより頭一つ以上低い。 「うん……でも平気だよ」 精一杯笑ってみせる。すると少年は少し怒った顔をする。 「嘘つくなよ。いつも痛そうにしてるじゃないか」 「大丈夫だって……それにぼくが殴られるのは仕方ない事だから」 「なんでさ!?」 少年は声をあらげる。少女は驚いた様に彼を見た。 「なんで君がこんな目に遭うんだよ!?おかしいだろ!」 「ぼくは皆と違うから……」 「そんなの関係ないよ」 「だって……みんな言うの……」 うつむき、肩を震わせる。そして堰を切ったように泣き出した。 「ぼくは……アラガミの子だって」 サクラは生まれついて特異な体質を持っていた。他の人間よりも傷の治りが早いのだ。普通なら致命傷になる様な怪我でさえ数日で完治してしまう。まるで怪物の様な力だった。 「変でしょ?キミと同じ歳なのに……わたし、こんなにおっきくなってる」 彼女は本来、少年より年下で10歳にも満たない。しかし彼女の身体は数年で成長を遂げていた。今や背は160cmを越え、胸も大きく膨らんでいる。明らかに異常な現象だ。 「そんなことない!」 少女は異端として周囲から疎まれてきた。同じ境遇の人間からも気味悪がられた。時には石を投げられ、暴力を振るわれることもあった。誰も助けてくれない。拾った親ですら彼女を避けた。そんな中唯一、彼女に接してくれたのがこの黒髪の少年だ。 「違う!キミは人間だ!」 泣きじゃくる彼女に、少年は必死に訴える。確かに少女の体は普通の人間とは違うのかもしれない。だが心まで化け物ではないはずだ。少なくとも少年にはそう見えた。彼女が何をしたというのか。どうして迫害されなければならないのか。理不尽な現実に憤りを覚える。 「俺さ。外に出る」 「え、でも地上はアラガミでいっぱいって……」 サクラは不安そうに呟く。シェルターの外はもはやアラガミの闊歩する地獄と化している。 「フェンリルに行くんだ。そして、ゴッドイーターになる」 少年の決意に満ちた瞳を見てサクラは首を振った。 「パッチテストで適合しないと……アナグラに入れても貰えないんだよ?」 フェンリルとは対アラガミ討伐組織であり、人類の最後の砦でもある。アラガミに対抗する唯一の手段である神機を操る戦士達を『ゴッドイーター』と呼び、彼らの為の前線基地でもある施設を『フェンリル支部』と呼ぶ。 ゴッドイーターになれるか否かはその人間の偏食因子の有無で決まる。その為、適合検査と言うものがあり、その結果によっては門前払いを受ける事になる。当然、過酷な環境にあるため相応の訓練が必要になるのだが…… 「知ってるよ。それでも行くんだ」 少年は真っ直ぐにサクラを見つめる。その瞳からは強い意志を感じた。 「無理だよ……死んじゃうよ。着く前にアラガミに食べられちゃう」 アラガミの中には大型種と呼ばれる巨大な個体も存在する。その爪牙は鉄筋製のビルさえ容易に切り裂くという。そんな化物の巣窟へ生身で向かうなど自殺行為でしかない。ましてや、まだ子供なのだ。 「大丈夫だよ。オレは死なない。絶対生きて帰るから」 そう言って笑う少年にサクラは何も言えなくなった。 「ゴッドイーターになったら、サクラを迎えに来る。権限で家族は保護してもらえるらしいし、そしたら一緒に暮らそう。アラガミも一匹残らず駆逐してやるんだ」 「……約束だよ?」 サクラの言葉に力強く頷く。二人は指切りをして誓い合った。少年が寝床に去っていくと、 「夢見過ぎよねぇ?バカじゃない?昔っからさー」 金髪の少女が現れた。身なりがよく、気品すら感じる。彼女はサクラと同年代だろう。彼女は嘲笑うかのようにサクラを見る。 「そ、そんなことないよ!ラクサ!」 「うっそだー。内心そう思ったでしょ?」 図星を突かれて言葉に詰まる。それを見てラクサと呼ばれた少女はケラケラと笑う。 「アラガミに食べられておしまいだよ?ただの自殺だよ」 「……奇跡は起きるよ!神様だって、きっとぼくの声が聴こえてるはずだよ」 サクラは強く主張するが、ラクサは呆れた様に首を振る。 「そんな都合の良いことが起きるわけないじゃん。バカなんじゃないの?」 「……っ!!」 「ねー、どうせさ。アイツ、アラガミに喰われて死んじゃうんならさー」 ラクサは気軽にこう言った。 「殺してたべちゃわない?」 サクラは言われた意味が分からず、しばらく硬直する。冗談のように聞こえるが、目は笑っていない。 「え?」 「勿体ないじゃん。ね、アイツ。身寄りないの知ってるでしょ?」 ようやく反論する。倫理的に許される筈はない。しかし、ラクサの言葉はいつも心にするりと入る。 「ば、バカなこと言わないでよ!ヒトがヒトを食べるなんて有り得ない!」 「それはそうかもね」 サクラが反論しようと口を開くが、ラクサが先に言葉を紡いだ。 「でも、サクラはさ。アラガミの子じゃない」 ラクサは見た目の可憐さに似合わない、獰猛な笑みを浮かべた。 「!?」 「アラガミならさ。人間食べても罪にならないよ?」 「ち、違うっ!ぼくは人間だよっ!」 「ラクサはね。アイツみたいに意地悪は言わない。サクラはアラガミの子供だよ」 「違うっ!!」 アラガミの腹から赤子の声がした。アラガミの腹から引き摺り出したのは、赤ん坊だった。アラガミに喰われた母親の胎内に居て、奇跡的に助かった。そう聞かされた。でも、本当にアラガミから産まれてきたのだとしたら。 『化け物!!』 『近寄るな!』 彼らの方が正しいのではないか?それを改めて思い知らされる言葉だった。 「ラクサはね、サクラの友達だよ。ずっとね」 「…………」 「じゃあね~また明日~」 そう言うと手を振って立ち去っていった。後には静寂が残った。そして、満たされない空腹も。 (帰って休まないと) 寝床に向かうと、相変わらず義父は眠っていた。その姿を見てほっと胸を撫で下ろす。しかし、 「さくらぁ……俺が悪かったぁ」 「ひっ……」 義父が立ち上がり、背中から手を回す。明らかに彼女を労うような手付きではない。 「ぁ」 「俺にはお前しか居ない……分かるだろ?」 そのまま服の上から乳房を揉み始める。ぞわぞわとした感覚が背中を走る。思わず身をよじろうとするが、後ろからがっちり押さえられているので動けない。 「や、やめて!とうさん……」 やがてその手は下着の中に侵入し、直接胸を触り始めた。乱暴に揉まれても不思議と痛みは感じない。 「俺を見捨てないでくれよ、サクラ、唯一の家族じゃないか」 耳元で囁かれると身体が震える。怖いはずなのに、嫌悪感がある筈なのに抵抗出来ない。染み込んだ恐怖に抗えない。やがて彼の手は下半身へと伸びていく。ボロ布の中に手を入れ、素肌に触れる。 「……!」 それから先の記憶はない。隣で眠る義父を起こさないようにそっと抜け出す。 汚れた水場で身体を洗う。何度も何度も身体を擦る。少しでも汚れを落とす為に。自分の中に残る汚い物を洗い流す為に。念入りに何度も洗う。 「ねぇ、殺しちゃいないよ、あんな奴。サクラ汚れちゃうじゃん」 いつの間にかラクサが後ろに立っていた。 「放っといて」 素っ気なく答えると、ラクサは舌打ちをする。 「バッカじゃない?ホントの親父でもないんだよ?」 「……とうさんが、壊れたのぼくのせいだもん。これくらい我慢しないと。唯一の家族だもん」 その言葉に再び舌打ちをすると、ラクサはどこかへ行ってしまった。 『お前が殺したのかっ!』 『いや、喰ったのか!やっぱりお前は……アラガミの子だ!』 あの日あのとき、曖昧に覚えているのは、そんな罵倒と、最後に見たのは絶望した様な顔の義父の顔だった。彼は壊れてしまった。それ以来、義父からの虐待が始まったのだ。 「あの日のことよく覚えてない、ただ凄くお腹が空いてたんだ」 それだけを覚えている。それ以外は何も思い出せない。まるでそこだけ記憶が抜け落ちたかの様に……いや、そもそも記憶なんて無かったのかもしれない。眠る気も失せたまま夜が更けていく。地下ではその変化も分からなかった。 ここでの仕事は過酷を極める。毎日朝から晩まで働かされる。配給も最低限、食事も満足には与えられない。だが、それで文句をいう者は居ない。地上に出ればアラガミの餌だ。逃げ場などないのだから皆諦めるしかないのだろう。主な仕事は瓦礫の撤去とそれを使っての防壁の修繕だ。瓦礫の中には防壁に使える偏食因子を含む物もあるらしく、それらを集めて新たな防壁を作るらしい。しかし作業は困難を極めた。何せここは元巨大シェルターなのだ。大量の資材が必要であり、しかも人手が圧倒的に足りない。その為、必然的に労働者の負担は大きくなっていく。 更に言えば物資は常に不足しており、常に空腹感に苛まれている状態だ。まともな食料など手に入らない。インフラを管理する人間が独占してるからだ!と労働者が訴えている。しかしインフラを管理する者が居なければ、崩壊するのは目に見えている。どんな場所でも支配層は居るものだ。彼らは自らの生活の為に他者を踏みつける事を厭わない。 「……」 今日も仕事が始まる。サクラ達はいつも通りの場所へ向かう。そこは旧時代の地下鉄駅跡だった。かつては多くの人で賑わっていたであろうその場所も今は見る影もない。床はひび割れ、天井は崩落している箇所も多くある。照明も無いため薄暗い上、埃っぽい上に空気が悪い。劣悪な環境の中での過酷な肉体労働を強いられる事になる。 「よいしょ……」 まずは崩れた壁を取り除くべくスコップを振るう。ひたすらに単調な作業を延々と繰り返す。体力の消耗が激しく、集中力が切れた者から脱落していく。疲労により注意力が散漫になり、些細なミスを繰り返すようになる。すると当然のように叱責され、より重い仕事を押し付けられるのだ。そしてついに限界を迎えた者から次々と倒れていく。倒れて動けなくなると、邪魔だからという理由で蹴り飛ばされる。 (今日はまだ大丈夫みたい……) サクラは比較的元気な方だった。実際何度か転倒し、怪我もしていた。それでも何とか持ち堪えていた。ようやく休憩時間になり、レーションが支給されるのだが…… 「……まずい」 蛋白質を固めただけのパサついた味のない固形食である。はっきり言って不味い。しかし食べなければ死んでしまうので我慢して食べるしかなかった。 (お腹空いたなぁ……) 腹が鳴るが、どうしようもないので無理矢理押し込む。ほとんど噛まずに丸呑みにする。そうして胃に流し込むとすぐに次の仕事が待っている。 「おい、これ食うか?」 「え?」 黒髪の少年が近くに寄ってきて、何かを手渡してくる。それは燻製された肉のようだ。受け取った瞬間、グゥーという大きな音が鳴り響く。思わず赤面する。 「お、お肉!?いいの!?」 「ああ」 「あ、ありがとう!」 少年から渡された肉を頬張る。久しぶりに味わう肉の旨味が口内に広がる。思わず笑みがこぼれてしまう。 「……うまいか?」 「うん!」 少年の問いに笑顔で答える。それを見た少年は安心したように笑った。 「誰にも言うなよ、連中から盗んだ奴だからな」 「ふぇ!?え、ええ!?」 「大丈夫だ、バレやしないさ」 少年はそう言うと他の労働者の元へ戻っていった。この劣悪な環境下で盗みを働く者がいるとは思わなかった。確かに誰も見ていない所であればチャンスはあるだろう。しかし、バレたらどうなるか分かったものではない。 「でも、おいしい」 久しぶりのまともな肉にサクラは感動すら覚えていた。ようやく終業時間となる。サクラはいつものように寝床に向かった。 「おい、ちょっと来い」 「え、でも、もう就寝時間だよ」 黒髪の少年が寝床に向かうサクラを呼び止める。 「肉、食ったろ?」 「あ……うぅ」 「いいから、来いよ」 有無を言わさぬ口調でそう言われると断れない。大人しくついていくと、人気のない場所に連れて行かれる。 あの後、結局貰った肉は全部食べたのだ。それを咎められるのだろうか?そう考えていたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。 「空、見たくないか?」 「え、でも外は……」 シェルターの外は基本的に危険地帯だ。いつアラガミに襲われるか分からない。産まれてから外に出た事などない。しかし、目の前の少年の瞳は真っ直ぐこちらを見据えている。とても嘘や冗談を言っている様には見えない。 「う、うん。見たいな」 その真剣な眼差しを見ているうちに興味が湧いてきた。それにもし見つかったとしても、彼と一緒ならなんとかなるのではないかと思った。何より彼に付いていく事に抵抗はなかった。 「え、こっちは管理棟だよ、ぼく達労働者は立ち入り禁止じゃ」 戸惑うサクラを無視して彼はどんどん進んでいく。 「ん、坊主また来たのか?」 「ああ、クレジットはある」 見張り男性とも顔見知りのようだった。黒髪の少年は見張りに何か手渡すと、そのまま奥の扉へ入っていく。 「これだ」 モニターの付いた筐体、フェンリルのマークの入っていた。どうやらこれが端末らしい。二人はそれの前に座ると操作を始めた。少年何やら入力を始めると画面が表示される。 「これって……?」 「オレもよく知らない。ターミナルって奴だらしい」 そこには青い空の映像が映し出されていた。思わず見入ってしまうほど美しい光景だった。こんな綺麗なものがこの世にあるのかと思う程だった。 「これが……空?」 「そうだ、綺麗だろ?ずっと見ていられるぜ」 その後も様々な映像を見せてもらった。花々が咲き乱れる草原、どこまでも広がる青空、幻想的な光の世界、見たこともないような景色の数々。それらを見ていると不思議と心が安らいだ。 「これがアラガミが現れる前の日本……」 様々な人達が幸せそうに行き来する交差点。公園で遊ぶ子供達の声。全てが新鮮で輝いて見えた。アラガミさえ現れなければ、今も続いていたかもしれない世界の姿だった。 ふと気付くと頬を涙が伝っていた。悲しくて泣いているわけではないことは分かっていた。胸が暖かくなって、涙が溢れてきたのだ。その涙を拭うことなく、彼女はしばらく眺めていたのだった。 「明日はバガラリー見よう」 「なにそれ?」 「アニメだよ。面白いんだぜ」 「あにめ?」 「んー、なんと言ったらいいかな。絵が動くんだ」 「え、絵が動く!?そ、そんなことあるもんか!」 「ほんとだって!明日見せてやるよ!」 2人は帰り道で色々な話をしながら帰った。 「オレさ。探索隊に志願したんだ」 「え?でも……それ、凄く危ないよ」 週に何回か、探索隊が組織される。これは比較的安全とされる地域に赴き、食糧等を探すものだ。当然危険も多いが、運良く見つけることが出来ればそれなりの報酬が得られるため人気は高い。ただしこれも毎回成功するとは限らない。アラガミの闊歩する地上に出るのだから。犠牲者はこの重労働より圧倒的に死者が出る。 「おいおい、オレはゴッドイーターになるんだ。これぐらいでビビってられない」 「……前に言ってたの本気なんだね?」 「冗談であんなこと言うか」 彼は笑って答えた。そんな彼を見てサクラも笑う。 「凄いね、キミは。前向きで……ぼくにはとても……」 「オレは映像で見たあの光景を現実にしたい」 強い意志を感じる言葉だった。彼の目は真っ直ぐに前を向いていた。その目に吸い込まれそうになる。 「オレはゴッドイーターになる」 「……ぼくには無理だよ……戦うなんて出来ない」 サクラにはそんな夢はない。ただ生きる為に必死で働いていただけだ。ただ日々の糧を得るために、その日暮らしをしているだけだった。そんな自分が嫌になったこともあった。しかし、他にどうすることも出来なかった。 そんな自分を彼は違うと言う。自分の力で何かを変えられると信じているのだ。自分には到底真似できない事だと素直に思った。それと同時に憧れにも似た感情を抱いていた。 (ぼくもなれるかな……?) 自分もいつかそんな風に変われるだろうか?そう思ったとき、不意に義父の顔が浮かんだ。彼が変わってしまったあの日のことを思い出す。 (ぼくはあんな風になりたくない……!) 強くそう思うと同時に、恐怖を感じた。自分は今のままでいいのか?このままでいいわけがないじゃないか!もっと強くなりたい!変わりたい! そして決意した。 「ぼくも……探索隊志願しようかな?」 「はぁ?鈍臭いお前に出来るわけないだろ」 「そんなことないもん!」 サクラは必死に抗議するが、鼻で笑われてしまう。ムッとするが言い返せない。自分でも無理だと思っているからだ。 「前に言ったろ。オレがゴッドイーターになってら、迎えに来てやるって。それまで待ってろよ」 その言葉を聞いた瞬間、何故か鼓動が高鳴った気がした。顔が熱くなるのを感じて俯く。なんだろう?この気持ちは?今まで感じたことのない気持ちに戸惑いを覚える。 「どうした?」 「ううん、なんでもないっ」 そう言って走り去るサクラの姿を不思議そうに眺める少年だった。 それから数日後のこと……その日は珍しく仕事が休みとなった日のことだった。現場で落盤事故が起きたらしい。その為作業も中止となり各自休息をとることになった。 「……どうしよう」 寝床に戻っても特にやることがなく暇を持て余していた。仕方ないので配給されたレーションを食べることにする。いつもの味気無い食事だが、今は空腹を満たすことの方が重要だった。黙々と食べ続けるが一向に減らない気がする。 「彼のトコに行こうかな」 黒髪の少年の顔を思い出し、自然と笑みが浮かぶ。彼と話している時間はあっという間に過ぎていく。それが何よりも楽しかった。 (あ、そっか彼は探索隊に……) 彼が探索隊に志願したことを思い出した。見送りもさせてくれなかった。 「ぼくに、勇気があれば……でもアラガミは怖い」 サクラは臆病だ。きっと対峙しただけで竦み、逃げることも出来ないまま……でもあの子ならきっと…… 「探索隊が帰ってきたぞー!」 誰かの声で我に帰る。慌てて入り口の方を見ると数台の車が入ってきたところだった。皆が駆け寄り、荷台に積まれた荷物を運び出す。その中に大きな袋があった。中には缶詰やレーションなどの保存食が大量に入っていた。 歓声が上がるなか、何名かが飛び出してくる。 「あのウチの子は!?」 「私の旦那はどうなったの!?」 どうやら犠牲者が出たようだ。泣きながら縋り付く女性達に探索隊は申し訳なさそうに首を横に振るだけだった。その光景を見てサクラの心は締め付けられる様に痛んだ。自分がもし同じ立場ならどうだろうか?想像するだけで恐ろしくなる。 「おい!早く運べ!」 そんなことを考えているうちに次々と荷物が運ばれていく。そして最後の一つが運ばれてきたときだった。それは遺体振り下ろすで、なにかが入っていた。ソレはちょうど子供ぐらいが入ってそうな膨らみだ。 「あの!」 サクラは思わず声をかける。すると、運んでいた男が振り向く。 「どうした?」 「それは、何ですか?」 「彼は身寄りがないと言っていたんだ。だから燃やすんだよ」 男は事も無げに言う。そう、ここでは人が死ぬことなど日常茶飯事だ。だからこそ誰もが無関心なのは当然だろう。 「あの、見せてください……」 「……知り合いか。なら見ない方が」 男の言葉を遮り、袋を開ける。顔の右半分がなく脳髄と眼球を露出させている。下半身は食い荒らせれ、無理矢理引き千切られていた。上半身はまだマシだったが、右腕には噛みちぎられた跡があり、左腕に至っては肩から先が無くなっていた。腹からは内臓が飛び出しており、袋の底に血溜まりを作っている。その髪の色は金髪だった。 「違います……彼じゃない」 「そうか」 「あの」 サクラが黒髪の少年の事を聞くと、不思議そうな顔をした。 「いや、確かに志願していたが、直前で取り消したんだ」 「な、なんで?」 「知らないよ。怖くなったんだろう。とにかくこの遺体を葬るんだ。丁重にな。勇敢な少年だった。だから邪魔をしないでくれ」 「……ご、ごめんなさい」 じゃあ彼は一体何処に居るんだろう。何があってやめてしまったんだろう。何もわからない。サクラは臨時配給を受け取ると帰路に着いた。 「体調が悪くなったんだ……きっと」 少年の住む居住地に向かう。その最中、 「この野郎が!俺たちの肉を盗みやがって!!」 突然怒号が響き渡る。声のした方を見ると、男数人がズタ袋を棍棒で殴ったり、蹴ったりしていた。 「おい、関わらん方がいいぞ。管理局の連中だ」 近くにいた労働者の一人が教えてくれた。彼らはここの管理者達であり、労働者に対して高圧的な態度を取っている連中でもある。 「ひっ」 言われずともサクラにそんな勇気はない。慌てて物陰に隠れて様子を伺うことにした。 「聞いてんのか!クソボケッ!」 男が棍棒を振り下ろす。ぐちゃっと嫌な音がした。すると、ズタ袋はピクリとも動かなくなる。 「おい!バカ!貴重な労働力だぞ!」 「こんなもんで死ぬかよ。おい!起きろ!おい!」 何度も殴打され、その度に血が飛び散る。しかし反応はない。 「お、おい、ヤバくないか。上になんて言うんだよ!」 「し、仕方ねぇだろ!大体コイツが肉を盗むからよ」 「お、おい!そこのガキ!これ焼却炉で燃やしとけ!」 男はサクラに向かってズタ袋を投げつけてくる。肉の塊が地面に落ちる音に、サクラは尻餅を着く。恐る恐る顔を上げると男達の姿はなかった。その場に残されたのは血塗れのズタ袋のみだった。 「…………」 周りでは他の労働者達が遠巻きに見ていた。誰もが関わり合いになりたくないと思っているようだった。 「なんで、ぼくが……ぇ?」 ズタ袋からはみ出しているの黒髪。別に珍しくもない。でも、なぜか、見覚えがあるような、うそだ、違う。これはもうただの死体だ。肉の塊なのが分かる、わからない。そんな訳ない。血溜まりを作って、でも、彼は確かに恐る恐るズタ袋を開いて、違う違う違う肉を盗んだって、違ううそだ!でも、この潰れた顔は確かに、首が変な方向に曲がって、違う。だって、彼は外に出るって。歯がないと人相は変わるんだ、なに言ってんだ。血は温かい。流れ出さてぼくの手が真っ赤に、きたない。違う思考が纏まらない。誰だこれは?違う。だって彼はぼくを迎えにきてくれると約束して、死ぬはずが、死んでる死んでる、知らない人がしんでる。 「お。死んでるじゃん」 ラクサが来た。違う生きてる、死んでない死んでない、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてラクサやめてやめて 「ケイト」 「ぁ」 ラクサが少年の名前を呼んだ。黒髪の少年、ケイト。サクラと約束をした少年。ゴッドイーターになると言った少年。空を見たかった少年。彼にサクラは希望を委ねた。しかし彼はなにも果てせないまま。踏み出すこともなく、ゴミのように。 ケイトは死んだ。 「ふひっ」 笑いが込み上げてきた。おかしくてしょうがない。なんだそれは?結局こうなるのか?結局こうなってしまうのか?結局は無力なのか?結局何も出来ないままなのか?所詮こんなものなのか?結局こんなものなのだ。やはり、自分には何も出来ないのだ。そう理解した瞬間、何かが弾け飛んだ気がした。同時に強烈な吐き気に襲われる。 「うっ……げほっ……うえぇ……」 胃の中のものを全て吐き出す。それでも治まらず嘔吐を繰り返す。涙や鼻水を流しながら吐き続けた。 「ようこそ。くそったれな世界へ」 ラクサは歌うようにそう言った。その顔はまるで無邪気な、そう天使のようだった。神さま神さま。ぼくの声が聴こえますか?ぼくはぼくでいられますか?