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フルルの餌食

 「この辺りが奴の巣のようだな」  壮年のハンターは辺りを警戒しつつ、物陰の仲間にサインを出す。サインを受けたハンター達はそれぞれ武器を構える。音も無く、鎧の擦れる音さえたてない熟練した動き、氷海に紛れるカラーリングを施した迷彩。彼らがただのハンターでないことを示していた。  「見たまえ。糞だ」  隊長各である壮年のハンターが地面に転がる茶色の物体を見付ける。  「ふむ、排泄され時間が経っているな」  この洞窟の主が排泄したであろう物体は表面が凍りついている。松明を近づけ、表面を解凍し剥ぎ取りナイフでほじくる。にちゃ……ぐちゅ……ナイフを入れると悪臭が吹き出す。回りのハンターは顔をしかめるが、壮年のハンターは顔色一つ変えない。繊維状のそれから、茶色に染まりきった骨が現れる。頭骨なのだろうが、頭頂部は半分程溶け、眼球が収まっていた窪にもたっぷり茶色の物体が詰められている。  「ふむ、三日ほど前に喰われた奴か」  淡々と呟く。辺りのハンターの顔色が明らかに悪くなる中、排泄物の解体を進める。  共に呑み込まれた防具らしき金属片、衣服の繊維、いずれも茶色く変色し原型を留めていない。ある程度遺品を回収し、再びサインを出す。それは危険、撤退の合図であった。  「!」  痕跡を発見したのに何故……辺りが動揺するが、壮年のハンターは構わず来た道を戻る。洞窟内は異様な程静かで、音を極力出さないように慎重に移動する。ギアノスや、小型モンスターすら影も形も無い。彼らの息遣いや、心音のみが響いていた。  その内の一人のペースが遅れる。あまりの静寂、神経をひりつかせる移動、先ほどのおぞましい排泄物。それらに加えなにか視線を感じる。  「……はぁはぁ……」  息切れしたように呼吸が荒れる、極度の緊張で極寒の筈なのに汗が吹き出る。その時、彼の背中に水滴が滴る。  「ひっ!?」  心臓が跳ねて、悲鳴が僅かに漏れる。ゾクゾクと背中に蛞蝓が這い周るような感覚。比較的若い彼は、まるで心臓を捕まれたかのよう。まるで大きな口が上から迫ってきて……そのまま丸呑みにされてしまいそうな……  「あ、あう……うあ―!」  「落ち着きたまえ気のせいだ」  「はっ!?……うう」  いつの間に壮年のハンターが前に立ち、宥めるように肩を叩く。叫ぶ寸前に押し止められへなへなと情けなく、崩れ落ちる。  「あと少しだ」  崩れ落ちたハンターを背負って、再び歩き出す。他のハンターは首を傾げながら後を追うのだった。  ぐるるるる~!ぐきゅううう~!  彼らが先ほど排泄物を見つけた場所、そこから獣の唸る音が反響していた。  「よし、もういいだろう」  やがて彼らは洞窟を抜け、太陽差し込む銀世界に降り立つ。氷海…周囲の海面に巨大な流氷が浮かぶ寒冷地帯。 大きくせり出した棚氷と、巨大な渦潮のある広大な海が特徴。 海上からは極寒の潮風が容赦なく吹き付けており、 大渦に流氷が次々と飲み込まれていく様子が確認できる。 フィールド中心部には巨大な氷山が存在しており、 この氷山周辺では吹雪が止むことはなく、雪原に常闇を生むことすらあるという。  「ほらキミも呑みたまえ」  踞るハンターにホットドリンクを差し出す。恐る恐る受け取り、一口呑む。温かく刺激的な辛味が、彼の体を温める。  「私は少し辛いのが好きでね。配合はトウガラシが多目だ」  「す、すいませんぼく……」  「そうだ、お前はそれでもG級ハンターか腰抜けめ!」  割り込むように体格の良いハンターが詰め寄る。  「ひっ」  「我々がモンスターを恐れてどうする!貴方もなぜだ。痕跡を見つけながら何故撤退を!」  怒鳴るように壮年のハンター非難する。刻まれたシワを寄せることもなく、再びホットドリンクを口に含む。  「彼女は危険だよ……人間に餓えている。数ヶ月前に食ったきりだ。三日前にたまたまありつけたようだが、一人では満足しない」  「伝説のハンターが、聞いて呆れるなこれほどの腰抜けとはな」 「そこの彼は正しい。我らハンターこそモンスターを恐れる必要がある。私は忠告するよ。今すぐ解散したまえよ」  「なにをいう!……そうか、ならば私一人でいく!奴の首をとってくる」  「警句はわすれてはいかんよ?ハンターよ。モンスターを畏れたまえよ?」  「ふん!」   そういうと体格の良い女ハンターは一人洞窟に戻って行った。  「さて、戻ろう。どちらにせよ明日の朝には解る」  「え、それはどういう……」  意味深に呟いた壮年のハンターを他のハンターは追いかけるのだった。       女ハンターは忘れていた。単機で古龍をも倒す彼女は忘れていた。恐れ、それに対抗する術を構築することを。相手は人間と同等の知性を持ち、罠の悪意を理解し、ハンターのことを何より知っていた。息を潜め、久しぶりの食事だからと、昂る本能を律する。ここは彼女の巣だ。構造は完全に知り尽くしている。視角に気配なく、潜むことなど造作もない。既に彼女は彼女の皿の上に居たのだ。  「んんん~!?」  唐突に、なんの気配もなかった筈だ。ハンターの視界が薄紅色の肉壁に包まれてしまう。柔らかい唇が腰にがっちり吸い付く。フルフルの唇の吸着力は非常に強く、自力では抜け出すことが出来ないとされる。それはG級ハンターでも例外はない。まともに戦闘すればフルフルは甲種であれ、空腹もあり善戦出来たかも知れない。しかしこれは「狩り」であり、「戦闘」ではない。彼女はそれを履き違えていた。プライドや信念など、野生の狩りになど通用しない。ただただ無情な弱肉強食がそこにあるだけ。  ぐちゅ……ずるるる……  そして「狩り」は「食事」に移行する。そのまま全身を咥内に引きずり込むと、天井に浚い、そのまま這って縦穴に移動する。  「い、や、だれか、んんん~!?」  フルフルの咥内で必死に助けを求める。咥内から悲鳴が漏れそうになった為、  「ひぎぃ!?あ……」  フルフルは咥内に電気を流す。電気ブレスを直に食らったようなモノ。いかに電気耐性の防具で固めようが、これほどの密度であれば関係ない。一撃で気絶出来なかったのはむしろ彼女にとって不幸だったかも知れない。  「ひゅ……かはっ」  全身が痺れ、視界がちかちかとフラッシュする。鼻腔が焦げ臭く熱い。内臓の一部が電撃で焼かれ損傷したのか、吐き出された血は赤黒く染まる。  「ぇぅぐ……ぁ」  機能が麻痺した彼女には最早抵抗おろか指一つ動かせない。それどころか舌が痺れて喋れない。  じゃる!ぐちゅぐちゅ……むはぁ~  この怪物の舌が全身を這い回るのおぞましい感触と、酷く臭う吐息が鼻を犯す。この人食い竜の吐息は熱く、液体のような湿度で絡み付く。  びちゃ……じゃる……にちゃあああ  ハンターの体を撫でる舌が久しぶりの食事に歓喜するように、唾液腺から大量の粘液を分泌する。ねっとりと全身を濡らすというより包んでいく。舌の柔らかな感触に、ぷつぷつとした味蕾の感触に、熱い吐息とねばねばの唾液に包まれながら、背筋が凍り付く。このフルフルは私を味わっているのだと、理解させられる。つまりそれは……彼女は「ハンター」から「食べ物」となり、「食事」として扱われている。  「………!?」  そんなのは嫌だ。私は功績を立て、いずれは猟団を持つ。この為に手柄を立てたかった。フルフルの甲種討伐……それは成せばギルドは私を認める。輝ける人生のビジョンが彼女には見えていた。  しかし現実は後悔しても襲い段階だった。  ぐちゅぐちゅじゅるるる~!れろん、れろぉ……  大蛇のような舌が、柔らかな咥内の肉壁が全身を撫で回す。  「……ぃ!?」  背中に固い感触。巨大な白臼のような歯の上に居た。そしてゆっくりと歯が迫ってきた……自分の人生の終わりがこんな怪物の食事になるなんて  「………ひ……ぅ」  誰か助けて……嫌だ。許して下さい!食べないで食べないで食べないで……!何度も何度も心中で懇願するが、無意味だった。  やがて歯はギロチンにように彼女の腰挟み込み切断しなかった。  「ぎ!?ああああ!」  ごり!ごき……ごり……ぐりぐり……  固い歯に全身が擦られ悲鳴をあげる。いつの間にか舌のしびれが無くなっていたが、彼女にそれを気付く余裕はない。  フルフルにとっては甘噛みだった。しかし体格差のある彼女にとってはプレス機に挟まれ、擦られるようなモノ。  「や、だ、やめて!いたいの……やめてぇえ……いだあいよおぉ!?」  ……こり、こり……じゅるるる……  元よりこのフルフルにとっては命乞いなど飽きるほど聴いている。しかしある程度顎を動かすと絶叫に変わる。  「ぎぁあああ……いたい!ぎあああ」  しばらく痛みは続いたがある時、舌に戻され、体を舐め回す。先程より舌が優しく撫でるようだった。憐れに思ったのだろうか……答えはすぐにわかった。  「ひっ、やめあ……ああああ!?」  ぐちゅぐちゅ……ごり……ごり……  「あう……うう」  れろ、ちゅぱ…ちゅるる……ごり  「ああああ~!?」  このフルフルは単に……味わい方を変えただけだった。    嬲られてどれくらい経ったか。散々舐め回され、甘い噛みされた肉体は最早麻痺なしでも衰弱している。  「………」  何故か自分を噛み砕こうとしないのか……早く楽にして欲しい。生存を放棄した彼女は安易に死に救いを求めた。  「……?」  ぐるるる……ぬぱあ……  奥の方からなにか不気味な音が響き、それは訪れた。  ぐぷ………ぐえええええっぷうううぅ~!  「!?……く、くさあ……おえええ!!」  耳を劈く程の下品な轟音。生暖かな突風。そして凄まじい悪臭。  この時、ハンターは知るよしもないが……大量の唾液と共に空気を呑み込んだ影響下でフルフルの腹が膨らんでいた。  それをゲップとして吐き出したのだ。言ってしまえばただの生理現象だ。スケールも規模も違うが。それほどまでに、人間とモンスターには差がある。人間に出来るのは恐れ、事前にそれに対抗する準備をすること……ハンターよ。モンスターを畏れたまえ。壮年のハンターの台詞が脳裏に映る。もう今さら遅い……  舌が持ち上がる。頭からフルフルの食道へと滑り落ちていく。食道がにちゃりと音をたて開いていく。もわりとした胃袋の臭い……先程のゲップの臭い……そんな空間に送られる。そうフルフルは獲物を……生きたまま……丸呑みにするのだ。  「い、あああああ……」  死の覚悟は出来たはずなのに、ハンターは暴れる。もっと生きたい……あんな臭い空間で溶かされて……死ぬなんてぇ……  抵抗虚しく頭から食道に咥えられる。そして嚥下が始まる。  ごく……  頭が狭く、苦しい肉管を潜らされる。  ……ごく、……ぐぐ……  頭がにゅるんと通ると次いで、胴体。  ごく……  足を必死にばたつかせる。 無意味な最後の抵抗。  ………ごっくん!  最後に爪先が食道へと収まった瞬間、嚥下音が鳴り、食道から胃袋にぐねぐねと送られていく。  「あ、ああああ」  ぐにゅぐにゅ……ぬぱああ  頭から噴門を潜らされる。自在に蠢き、食べ物を胃袋に送り込んだ。  「う!?げほっげほっごほ……うげえうううー!」  あまりの強い酸臭に耐えきれず、吐瀉する。内容物を吐き出しても収まらない。  「……はあはあ……うそよ……こんなの」  雷光虫が寄生しているのか胃袋は明るい。しかしそれが酷く生々しい。薄ピンクの胃壁はひだひだが蠢き、光が胃粘液に反射し怪しく光っている。絶えず振動し、鼓動が遠くに聴こえる。  ぐるるるる~!ぎゅるるるぅ~!  捕食され腹の中に収まった……無理矢理認識させられた。食べられたらどうなるのか……生きたまま消化される。消化されれば栄養になる。  「……い、いや……」  彼女には明るいビジョンがあり、それに向かうだけの実力があった。猟団の長として、ギルドに名を轟かせる。引退後は故郷に帰り、苦労をかけた両親に恩返しをする。確かに描いたビジョン。しかしそんなものはフルフルの消化器官に関係ない。  ただいつものように食べ物として彼女を消化し吸収しそして……  「……!?」  彼女のビジョンが絶望に塗り変わる。思い浮かんだのは、先程見たフルフルの排泄物。汚ならしい茶色の汚泥に、悪臭を放つ……その中に唯一人間だった名残、頭蓋骨に防具……  いつだったか……魚を丸ごと誤飲したことがある。翌日のトイレで捻り出したそれには骨がそのまま残っていた。  そして自分が居るのはフルフルの胃袋……もう末路がビジョンとして見えていた。それは限界だった最後の理性を吹き飛ばした。  「…い………いやああああああああああああああああ!?」  胃壁に向かい必死に叩く。武器は呑まれた際に吐き出された、あとは腕で殴るしかない。  「だしてえええええ!う……う…うんちに……うんちになるなんていやあああああああ!!」  ぼよん、ぽよんと。肉壁はゴムのように跳ねるだけで効いているようには見えない。しかし止めない。止められない。そんな判断力は彼女にはない。  ……ぐるる!げええっぷうう!  胃袋が揺れて上部に捻るように蠢くと、ゲップが内部でも分かるように響く。  「……ああああああ……あれ」  両手がぐずぐずになり力が入らない。見ると皮膚は蕩けて、筋繊維が露出する。神経が胃液に直接触れると、耐え難い激痛が走る。  「………は……ひっ、ひっ……」  下がろうとして転んでしまう。立ち上がろうとするが足先に力が入らない。  「……あれ、あたしの足が……?」  溜まった胃液に浸かり溶けかけた足首が転んだ拍子に、引きちぎれたのだ。  叩いた刺激か、大量の胃液が分泌されていた。ぼたぼた……じゅううう……  胃液の塊が鎧の隙間から侵入する。皮膚は溶け、内臓が溶かされていく。  「………ひゅーひゅー」  悲鳴をあげようとしたが、口から入った胃液が喉を内部を溶かし、声帯を焼いていた。肺に穴が空き空気が漏れ出す。  流れ出した内臓をこぼさないよう腕を動かす、押さえようとするが肩が痙攣するだけだ。すでに腕は溶け落ちていた。  「……こぽこぽ」  内臓が溶け出して口からは血が溢れる。呼吸しようとしたが空気が血に気泡を作るだけだ。  「………」  目を瞑ろうとしたが、閉じない。閉じる為の瞼が溶けたからだ。目を開けな瞳が、噴門が開き、悲鳴をあけがらケルビが降ってくる。  (あたしじゃ足りなかったのか……ああ、フルフルってやっぱりケルビすきなんだ……あれ、あたしなんだ……あぇ?)  そこで彼女の思考が止まる。だが、それでもフルフルの胃袋は蠕動を容赦なく続け、更に細かく消化していく。続々とケルビが呑まれてくる。やがて呑まれたケルビの群れも消化され、もはや何がハンターなのかわからない赤黒い液体と化し、漂うだけとなる。  再び揺れ始め、空気が搾り出されて  ごえええええぇううう~ぷううう!  誰もいなくなった胃袋でゲップだけが響き渡った。更に時間が経つと赤黒い液体が嵩を減らしていく。胃袋から十二指腸に送られていく。その頃にはフルフルは眠りにつく。強力な胆汁がハンターやケルビの残された骨を溶かし尽くす。十二指腸を抜けると、長い長い腸内に送られ栄養を搾り尽くす。極力栄養とする為に激しく揉みこむ。それが獲物に対するフルフルのせめてものお礼だ。  やがて栄養を搾り尽くされたハンターだったモノは大腸に送られる。そして大腸内で水分も吸い付くす。巨体を維持する為だ。そして個体となった成れの果てはフルフルの排泄物……つまりあれほどハンターのなりなくないと叫んでいた、ウンチに成り果てたのだ。  直腸内に溜められたことで、ウンチとなったハンターがガスが発生させる。それはメタンガス……オナラとなり溜まり、フルフルの下腹部を膨らませる。  やがて、眼を覚ましたフルフルはおもむろにお尻をつきだすと  ぶす!ぶううう~!  溜まったガスをオナラとして吹き出す。  腸内内ではガスが抜けたことで、便意をフルフルに伝える。そして、便意に従いは排泄を始める。  ふす!ぶうう~!  腸内のオナラを全部吐き出し…… ……ぶっ!ぶりゅるるる!ぶっ!むりゅるるる!!  下品な音をたて排泄されていく。肛門を抜けようやく外に解放された。フルフルはお尻を拭き取り、呑気に大あくびをすると。  「ん、ごちそうさま♪」  そう彼女に告げて去るのだった……  「おかえりというべきかな?」  壮年のハンターがフルフルの排泄物を、ほじる。中からケルビの骨をかき分け、彼女の着ていた防具……それに着いていたタグを取り出す。  「故郷には私が届けよう。今一度人間生まれ変われたら、次は畏れたまえ」  ハンターよモンスターを畏れたえよ。


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